仮面夫婦は仮面を剥ぎ取りたい。〜天才外科医と契約結婚〜
梨本は柔和な笑みを浮かべ、杏葉に握手を求めた。
「僕アズハさんのファンなんです。お会いできて光栄です」
「あら、ありがとうございます。こちらこそ現役時代の目覚ましいご活躍、いつも拝見しておりました」
「ありがとうございます」
「それよりも、どうしてここに……?」
先程からの疑問を気持ち控えめに尋ねる。
「柚葉ちゃんの病院がここだと聞いて、お見舞いに伺ったんです。しかも主治医が壱護だというので」
「え?壱護のお知り合いですか?」
「ああ、これは失礼しました。今はアズハさんの旦那さんでしたね。実は僕、壱護とは……」
「卓」
遮るように病室に壱護が現れる。
「余計なこと言わなくていい」
「やあ、壱護。久しぶりだね」
杏葉は思わず壱護と梨本の顔を交互に見つめていた。
「アズハ、柚葉さん。改めて紹介する。俺の昔からの知人である梨本だ」
「知人ってなんか他人行儀じゃない?」
「うるさい」
「えーっ!お義兄さん、卓さんと友達だったんだ!」
柚葉は意外そうに瞳をパチパチさせていた。
「おにいさん、か。柚葉ちゃんが壱護の義理の妹になるなんてね。今更だけど結婚おめでとう」
「おう」
今更ながら杏葉はものすごく緊張していた。
柚葉の姉としてならまだ上手くやり過ごせると思っていたが、まさか壱護の友人だったとは。
知り合いの前で妻を演じるというのは初めてのことで、ハードルが高かった。
「(偽の妻だってバレないようにしないと……!!)」