仮面夫婦は仮面を剥ぎ取りたい。〜天才外科医と契約結婚〜
その後四人は会話可能な病院内のラウンジスペースのテーブルを囲んだ。
梨本が缶コーヒー、柚葉にはココアをご馳走してくれた。
「アズハさんもブラックで大丈夫ですか?」
「はい、ありがとうございます」
本当はブラックは飲めないなどとは言えなかった。
口の中いっぱいに苦味を感じながら、それでも杏葉は笑顔を崩さない。
「これでも壱護とは小学生からの付き合いで、所謂幼馴染みたいなものなんですよ」
「そうだったのですね」
「なのにこいつ、結婚したこと事後報告ですよ?ちょっとショックでしたね」
「アズハの職業柄、大っぴらに言えなかったんだよ」
「そ、そうなんです。私に合わせていただいて。改めてご挨拶が遅れてすみません」
「いえ、まさかあのアズハさんとは驚きました。生で見る方が数倍もお綺麗で更に驚きましたよ」
「もう、梨本さんったらお上手なんだから」
コロコロと笑いを浮かべる杏葉だが、内心では冷や汗をダラダラかいている。
かりそめの妻だとバレてはいけないことは無論のこと、純粋に幼馴染である梨本に良い印象を与えたいという思いもあった。
「(大丈夫、私はアズハ。やってみせる……!!)」
「……柚葉さん、そろそろリハビリの時間じゃないか」
「あっそうだった」
柚葉はココアを飲みながら時計を見上げる。
「ごめんなさい、卓さん。もう行かなきゃ」
「いや、急に押しかけてごめんね。リハビリ、頑張って。みんなが君の復帰を待ち望んでいるから」
「ありがとうございます」