仮面夫婦は仮面を剥ぎ取りたい。〜天才外科医と契約結婚〜
壱護が柚葉の車椅子を押してリハビリルームへと向かったので、杏葉と梨本だけが残される。
沈黙が気まずい杏葉は自分から話を振った。
「柚葉のためにわざわざお見舞いに来てくださってありがとうございます。梨本さんに来ていただいてあの子も励みになったと思います」
「いえいえ、僕なんて何もしてあげられませんよ。柚葉ちゃんの復帰は日本国民が望んでいることです。彼女は間違いなく日本フィギュア界の未来を担う存在です」
「そんな、梨本さんにそう言っていただけるなんて姉として誇りですわ」
あくまでアズハらしく上品な笑みを浮かべていたが、内心は震える程に嬉しかった。
かつての日本のエース選手直々に褒めてもらえることなんて、こんな機会はそうそうない。
口角が大きく緩みそうになるのを堪えながら、話題を変えた。
「そういえば壱護と小学生からの友人だったなんて、すごいですね。地元が同じだったんですか?」
「そうですね、地元が同じというか同じスケートリンクに通っていたというか。スケート教室で知り合ったんですよ」
「スケートで!……壱護もスケートをやってたんですか?」
「あれ、ご存知ないですか」
意外そうに杏葉を見つめる梨本。
杏葉は不思議そうに何度も瞬きをする。
「壱護は昔フィギュアスケートやってたんです」
「ええっ!?」