仮面夫婦は仮面を剥ぎ取りたい。〜天才外科医と契約結婚〜
6.旦那との壁
壱護がフィギュアスケートをやっていたという話は全くの初耳だった。
梨本はスマホを取り出し、スイスイと画面をスワイプしてある写真を見せる。
「僕と壱護はジュニア時代何度も表彰台を争った仲なんです」
そこに写っていたのは十五、十六歳くらいのあどけない少年ながら、今の面影が見える壱護だった。
フィギュアスケートの衣装に身を包み、今と同じような仏頂面で金メダルを掲げている。
その隣には笑顔で銀メダルを掲げる梨本と思わしき少年も写っていた。
「し、知らなかったです……」
「そうでしたか。あいつにとってはもう過去のことだからですかね」
梨本は少し寂しそうに肩を竦める。
「あの、どうして壱護は……」
「杏葉」
スケートを辞めたんですか、そう尋ねる前に背後からグイッと腕を掴まれた。
椅子に座っている杏葉を見下ろす壱護の顔がアップで映る。
顔が近くて思わずドキッとしてしまった。
「そろそろ戻らなきゃいけないんだ。送っていけなくてすまない」
「い、いえ、大丈夫よ」
「気をつけて帰れよ」
そう言って壱護はそのままチュッと杏葉の額にキスを落とす。
「っ!?」
予想外の壱護からのキスに茹で蛸になりそうになったが、杏葉は全ての表情筋に力を込めた。
「行ってらっしゃい、ダーリン♡」
顔が赤くなっていないことを祈りながら、杏葉は笑顔で愛する夫を見送る。