仮面夫婦は仮面を剥ぎ取りたい。〜天才外科医と契約結婚〜
何となくだが、壱護は過去のことに触れて欲しくないように思った。
本人が嫌なら無理に聞き出すようなことはしたくない。
だけど気になってしまう自分がいる。
壱護に惹かれていく度に、壱護のことを何も知らないことが悲しくなる。
壱護の仮面の裏側を知りたいと思ってしまう。
壱護は初めて素顔の杏葉を曝け出せた存在だった。
完璧に着飾ったアズハより、ありのままの杏葉が良いと言ってくれた。それがとても嬉しかった。
だからといって、どんな自分でも受け入れてくれると自惚れるだけの自信は杏葉にはない。
臆病な自分が萎縮して、嫌われたくないと思ってしまう。
壱護のことが好きだからこそ。
「どうして好きになっちゃったんだろ……」
杏葉は溜息をつきながら病院を出る。
「淡雪せんせー!ありがとうございました!」
ふと男の子の元気な声が聞こえてハッとした。
振り返ると、病院の出入り口前でヒラヒラと手を振る男の子、その母親と思われる女性、そして壱護がいる。
「せんせー、ぼくね、大きくなったら野球選手になるんだ!」
「そうか、なら応援に行かなきゃな」
「ホームラン打ってそのボール、せんせーにあげるよ!」
「ははっ、それは楽しみだ」
優しげな表情で微笑む壱護の横顔に、思わずどきんと胸が高鳴る。
「(壱護って子どもからも好かれてるんだ……)」