仮面夫婦は仮面を剥ぎ取りたい。〜天才外科医と契約結婚〜
子どもができたら壱護は良いパパになるのだろうか。
そんなことを想像してしまい、一人で赤面してしまう。
そんなことはあり得ないのに。
「(そもそもそういうことの経験がない私にはハードルが高い……!)」
「杏葉」
一人悶々と妄想していたら、壱護に見つかってしまった。
あの親子は帰ったようで壱護しかいなかった。
「何してんだよ」
「別に……っ、これから帰るところ」
「卓は?」
「帰ったよ」
「あいつに変なことされてないだろうな?」
「されてないけど……」
何故そんなことを聞くのだろうと首を傾げてしまう。
「ならいい。気をつけろよ、あんた本当はポンコツなんだから」
「わ、わかってる!」
杏葉はバレないようにしろよ、と言いたいのだろうと解釈した。
ほんの少しでもヤキモチ妬いてくれたりして、なんて思った自分が恥ずかしい。そんなことあるわけがないのに。
「今日は遅いの?」
「まあ遅くなるだろうな」
「そっか、頑張ってね」
杏葉はふわ、と微笑みかける。
なかなか一緒にいる時間は取れないけれど、壱護が忙しいのはそれだけ壱護を必要としている人がいるということだ。
「杏葉……」
「えっ……」
壱護の右手が杏葉の頬に近づく。
戸惑いながらも先の展開に期待してしまう杏葉は、思わずぎゅっと目を瞑った。
「――さっきからずっと髪食ってる」