仮面夫婦は仮面を剥ぎ取りたい。〜天才外科医と契約結婚〜
* * *
「はぁーーーー……」
「どうしたの? アズハちゃん。色っぽい溜息なんてついちゃって」
盛大に溜息をつく杏葉の顔を心配そうに覗き込むのは、アズハのメイクを担当する柿原リコ。
年齢は三十歳で三歳の息子を育てるママさんでもある。
「色っぽい溜息なんて吐いてました?」
「もうフェロモンムンムンのやつがね」
吐き出される溜息とともに漏れ出る色気は、杏葉の意志とは無関係に周囲の人間(主に男性)を虜にしていた。
「旦那さんと上手くいってないの?最近新婚らしい投稿ないじゃない」
「うう、そういうわけでは……」
インステ投稿をサボり気味になっているのは図星だった。
理由はこれまで投稿してきたエセ新婚の投稿を見返し、何だか虚しくなってしまったからだ。
アズハのファンが待ち望んでいることだとしても、嘘で塗り固められた偽りの姿を見せるのが辛くなってしまった。
これまでもずっとそうしてきたのに、今更しんどくなってしまったのは壱護に恋をしてしまったからだろう。
今までの投稿が全て現実だったらいいのに、と思うと切なくて何も書けなくなってしまうのだ。
「最近夫が仕事で忙しくて……」
「お医者さんだもんね」
「正直結構寂しくて、インステも投稿する気になれないんです」
あくまでしおらしい新妻を演出する。
決して不仲だったり倦怠期などと思われてはいけない。