仮面夫婦は仮面を剥ぎ取りたい。〜天才外科医と契約結婚〜
タワーマンションの上層階に住み、身に付ける私服やアクセサリーは全てブランド品ばかり。
実際はタワマンに住んでなどいないし、仕事で着たものをかなり格安で引き取らせてもらったり、スポンサーからプレゼントしてもらったものばかり。最悪写真を撮るためだけに借りたレンタルな場合もある。
嘘で塗り固められても、杏葉はセレブモデル・アズハとしてのイメージを死守した。
完璧な仮面を被ってアズハという人物を演じ続けているのだ。
これも全ては柚葉のため。
柚葉がオリンピックで金メダルを獲るためなら、何だってできた。
ついに四回転ジャンプを成功させ、どんどん成長していく柚葉は着実に夢に近付いていた。
それなのに、あともう少しと迫ったところで神様が試練を与えた。なんて意地悪な神様なのだろう。
杏葉は人脈を辿り、柚葉の怪我を確実に治せる医者を探した。
そこで辿り着いたのが、淡雪総合病院だった。
この病院には天才と謳われる外科医がいて、特にスポーツ選手の怪我に精通しており数々の選手を復帰させたという。
もうこの人に頼むしかないと思った杏葉は、すぐさま淡雪総合病院に向かった。
スポーツ医学に詳しい外科医に会わせて欲しいと直談判しに行ったところ、一人の医師が声をかけてきた。
「それ、多分僕のことじゃないかな。院長の弟で外科医の淡雪二郎です」
自分から名乗ってきた淡雪二郎は院長の弟で五十代半ばのベテラン医師だった。