仮面夫婦は仮面を剥ぎ取りたい。〜天才外科医と契約結婚〜
ほとんど無意識的にこぼれ出ていた。
そんな杏葉に対して柿原はニコニコ微笑む。
「アズハちゃんも運命の人と出会えたんでしょ?」
「っ、」
「はい、完成!今日もパーフェクトな美貌だね」
内巻きに巻かれたロングヘアから僅かに覗くうなじには、キラキラと光るラメが散りばめられている。
アイメイクは濃くハッキリと、睫毛は大きくカールして目力を強く。
ぷっくりとした唇には、妖艶な真っ赤なルージュが引かれている。
鏡に映っているのはどこから見ても完璧に美しいモデルのアズハだった。
まるでさなぎが蝶になるように、柿原の手によってアズハは完成するのである。
「ほんと幸せ者だよね、旦那さん。こんなに美人な奥さんに愛されてるんだもの」
「そう、ですかね……」
杏葉は上手く笑えなかった。笑おうとはしたが、笑えていなかったと思う。
自分と壱護は違う。
柿原と彼女の夫のように巡り合うべくして出会い、結ばれるべくして結ばれた夫婦ではない。
胸に空いた穴に無理矢理何かを詰め込んで、杏葉はアズハとしてカメラの前に立つ。
寂しさを瞳の裏に隠し、今日もアズハとしての仮面を被るのだ。
「アズハさん入られまーす!」
「よろしくお願いします」
カシャカシャと響くシャッター音と眩しいフラッシュの光。
ポーズを変え、表情を変えレンズに向かってアピールをする。
私を見て、と言わんばかりに。
だが同時に、本当に見て欲しい人には見てもらえない寂しさが込み上げる。
無論そんな気持ちは絶対に見せないけれど。