仮面夫婦は仮面を剥ぎ取りたい。〜天才外科医と契約結婚〜
「大丈夫ですか?」
「すみません、ありがとうございます……あっ!」
杏葉は慌てて持っていたフルーツタルトの箱を開けてみる。
幸いにして崩れたりはしておらず、何とか無事だった。
「よかったぁ」
「ふふ、よかったですね」
「はい!ヒヤッとしちゃいました」
「何だかアズハさんって、素顔はとても可愛らしい方なんですね」
「えっ!?」
「ますます好きになっちゃいますね」
今の「好き」は恐らくファンとしてという意味で、それ以上の深い意味はないはずだ。
少し戸惑いつつ、杏葉はニコリと微笑んだ。
「ふふ、ありがとうございます」
「杏葉!!」
突然大声で名前を呼ばれ、振り返ると壱護がいた。
いつの間にか病院の目の前まで着いていたようだ。
何故か不機嫌そうに睨む壱護はツカツカと歩み寄ると、グイッと杏葉の腕を引き寄せて自分の方に寄せた。
「えっ……」
「妻が世話になったようだな」
杏葉を自分に寄せたまま、壱護は梨本を睨み付ける。
対して梨本はいつも通りの穏やかな笑みを浮かべている。
「大したことはないよ」
「当たり前だろう」
「(なんか壱護、怒ってる……?)」
杏葉の心臓は色んな意味でドキドキしている。
「アズハさん、他にも見舞いたい人がいるのでまた後ほどお邪魔しますね」
「あ、はい」
「それではまた」
梨本は軽く会釈をし、先に院内へと入っていた。
チラリと意味深に壱護を一瞥してから。