仮面夫婦は仮面を剥ぎ取りたい。〜天才外科医と契約結婚〜
壱護にとって梨本は幼馴染であるはずなのに、どうしてそんな風に否定するのか全く理解できなかった。
「あいつは、あんたが思ってるような人物じゃないんだよ」
「どういうこと? ちゃんと説明してくれなきゃわからないよ」
「あんたには関係ない。とにかく近づくな」
「っ!」
そう言われた時、杏葉の胸がチクリと痛んだ。すごくショックを受けたし、悲しいとも思った。
「……そうだよね、私はかりそめの妻だもん。余計なことは知らなくてもいいよね」
「杏葉?」
「でも、そんな風に突き放さなくてもいいじゃない……!」
杏葉は絶対に泣くまいと、唇を噛み締める。
「は? 何言って……」
「ごめんね!! 全然上手くできなくて……本当はダメダメでポンコツで」
「おい杏葉、」
「でも私なりに、壱護の奥さんとして頑張りたいだけなの!」
自分でも何が言いたいのかわからなくて、グチャグチャだった。
ただ、悲しいのだ。
壱護と梨本の間に何があったのか知らないが、それを教えてはもらえないこと。
杏葉には無関係なことだと突き放されてしまうこと。
踏み込むことを許されない、信用されてない関係だと突き付けられたようで、悲しかった。
「っ、もういい!」
「杏葉……!」
「来ないで!!」
バタン! と勢いよく扉を閉めて杏葉は診察室から出て行った。
一人診察室に残された壱護は、行き場のなくした右手でガシガシと自分の頭を掻く。
「――わかれよ、アホ」