仮面夫婦は仮面を剥ぎ取りたい。〜天才外科医と契約結婚〜


 だけど、そう思っているのは自分だけ。
 一方通行な想いでしかなくて、あまりにも悲しい。

 壱護が好きだと思う程辛くて、十歳下の妹の前でも涙が溢れてしまう。

 やっぱり自分はダメだなぁと、溢れる涙を押さえながら杏葉は思った。
 気が緩んでしまうと涙腺が馬鹿になってしまうのは、子どもの頃から直らない。

 ましてや今は素顔の杏葉のままだから。


「――なんだ、安心したよ」


 柚葉は安堵したように優しく微笑む。


「私のために好きでもない人と結婚したのかと思ってたけど、ちゃんと恋してたんだね」

「でも、好きなのは私だけだから……」

「告白すればいいじゃん」

「む、無理!今更無理だよ!」

「なんで今更なの?」

「……」


 シュンとする杏葉に向かって、柚葉はグイッと両頬に手を当てて顔を上げさせる。


「あのね、あず姉は綺麗だよ!」

「それはわかってるけど……」

「モデルやってる時のカッコいいあず姉も好きだけど、私はいつものちょっと抜けてるあず姉の方が大好き。いつも一生懸命で真面目なあず姉は、私の自慢のお姉ちゃんだよ」

「柚葉……っ」


 柚葉の言葉にもっと涙腺がゆるゆるになる。


「あず姉はそのままでも充分綺麗なんだから、自信持って」

「うう、でも……」

「私に諦めないでって言ったのあず姉でしょ?」

「そう、だね……」


 杏葉は涙を拭い、自分の頬を何度も叩いた。


「ありがと、柚葉。弱気にならないで頑張ってみる……!」


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