仮面夫婦は仮面を剥ぎ取りたい。〜天才外科医と契約結婚〜
いつも自分のスイッチを押してくれるのは柚葉だなと思った。
姉としては情けないかもしれないが、誇らしくも思う。
杏葉は残りのタルトを一気に食べた。
他に人がいたら絶対にできないくらい、大口を開けて食べてしまった。
「ちゃんと壱護と話してくる!」
「うん、頑張って」
「頑張ってくるね!」
そうして病室から出て行く杏葉を柚葉は見送った。
来た時よりも憑き物が落ちたような、晴れやかな表情になっていた。
「てかあず姉、片想いだと思ってるのかな?そんなことないと思うんだけど……」
* * *
壱護と話をしようと思ったは良いものの、そんなに上手くはいかない。
壱護は今日は当直だ。話したいと思ってもそう簡単に時間が作れるわけではなかった。
仕事中を邪魔するわけにもいかないし、颯爽と病室を飛び出してみたは良いものの、結局は帰るしかなかった。
「――いやへこたれてる場合じゃない!何か美味しいものでも作ろう!」
壱護の分は明日の朝食にでもしてもらえれば良い。
少しでも仲直りのきっかけになれば、そう思った。
そろそろインステに投稿する写真がなくて柑奈に怠慢するなと言われたところだったので、思いっきり写真映えする料理を作ろうと思った。
「……壱護と一緒に食べられたら最高だったけど、仕方ないよね」