仮面夫婦は仮面を剥ぎ取りたい。〜天才外科医と契約結婚〜
院長の弟でベテラン外科医。杏葉は間違いなくこの人だと思い、二郎に縋り付いた。
「お願いします、先生!私の妹を助けてください!」
「ふむ、まずは話を聞こうか。僕の部屋においで」
通された部屋は二郎個人の部屋として使われているらしい、応接室だった。医療書だけでなく漫画本も机の上に雑多に積み上げられており、とても整理整頓されているとは言えなかった。
そもそも仕事部屋に漫画本が積み上がっているのは如何なものかと思ったが、見て見ぬフリをした。
「うちの病院なら最先端の医療が受けられる。きっと妹さんも治せると思うよ」
「本当ですか!」
「でも、治療費はかなりかかる」
「お金はいくらでも払います。どうか妹を助けてください」
「治療費だけで一億円はかかるけど、大丈夫?」
「い、いちおく……?」
前のめりになっていた杏葉の腰が引けた。
ある程度は覚悟していたが、億という単位は想定していなかった。思わず視線が泳いでしまう。
「一億円、ですか……」
「最先端医療は保険適用外のものもあってかなり高くつくんだよ」
「今すぐに準備できる額ではありませんが、それでも妹は治るし選手として復帰できるんですよね?」
「ああ、きっと治る」
一億円で柚葉が夢を諦めなくて良いのなら、お金は何としてでもかき集めよう。杏葉は覚悟を決めた。
「わかりました、お願いします」
「それじゃあ、ここにサインしてくれる?」
差し出された紙の一文字目に目を通そうとしたところで、突然背後からガチャリという音が聞こえた。
「――何してるんだよ、叔父さん」