仮面夫婦は仮面を剥ぎ取りたい。〜天才外科医と契約結婚〜
エピローグ
「いい加減結婚したらどうだ。お前に相応しい見合い話ならいくらでもあるぞ」
父からそう言われ、淡雪壱護はそろそろ自分に残されたリミットがないことを察した。
これまではまだ医者としての腕を磨きたいから、患者と向き合うことが第一だからと理由を付けて交わしてきた。
しかし今年で三十四ということもあり、跡取りになることを真剣に考えろということだ。
下手に見合い話を持って来られても困るが、生憎今は特定の相手はいない。
どうしようかと考えあぐねていた時、出会ったのが杏葉だった。
セレブモデル・アズハといえば、壱護も耳にしたことがある。
絶世の美貌に抜群のプロポーション。自分が世界の中心で回っていると思っているような、プライドの高い女。
それが壱護の抱いていたアズハのイメージだった。正直良いイメージを抱いていたわけではなかったが、かりそめの妻には持ってこいの存在だった。
互いの利害が一致したことによる契約結婚。
それ以上でもそれ以下でもないはずだった。
しかし、彼女の意外な素顔を知ることになる。
両親を事故で亡くし、妹と二人で暮らす苦労人。セレブどころかかなりの庶民派である。
どんな男も手玉に取ってきたと言わんばかりの顔をしていながら、実際は全く男性経験がなくかなり初心。
フィギュアスケート選手として活躍する妹のため、全てを捧げて妹のことを支えていた。
だがそれを苦とは思わず、妹の活躍を心から喜んで誰よりも応援している。
不器用ながら一生懸命な姿は、壱護に衝撃を与えた。