冷たい城の番人
みんなから死角になるビルの裏まで無鉄砲に走って、乱れた息を整える。
どうしよう、嘘、吐いちゃった。
あの家に、わたしの帰りを待ってる人なんていない。
本当はまだ、帰りたくない……。
おもむろに顔をあげると、視界に大きな時計塔が映る。
針は午後6時50分を差していた。
辺りはもう薄暗く、時計塔の灯りが街を彩り始めている。
あの時計塔って、たしかお城の敷地に建ってるんだよね。
そうだ。せっかくだし、お城の庭園に行ってみようかな……。
ふと思い立ったときには、足はすでにその方向へ向かっていた。
時計塔の灯りを頼りに黙々と歩いて、ようやく城の門らしき部分へたどり着く。
その奥には花壇があった。
ライトアップされた花びらたちがそれぞれ輝いて、闇に浮かんでいるかのよう。
「きれー……」
幻想的な美しさに誘われるように、そこに足を踏み入れたのと、
鐘の音が、夜の7時を告げたのは
ほぼ同時……───。
「おい、お前」