嘘からはじまる恋のデッサン
──『心が疲れたら僕が貴方の心の声を聞きます。シロクマ先生より』

──『寂しがり屋専門・こころの相談所 シロクマ』

(心が疲れたら……)

その文言に惹かれるように私は気付けばそのサイトのURLをクリックしていた。

クリックするとすぐに目に飛び込んできたのは、可愛らしいりんごを持ったシロクマのキャラクターだ。そして背景は目が覚めるようなセルリアンブルーの色をした青空に真っ白な雲が浮かんでいる。

「わ……絵、上手だな……」

私は小さな頃から絵を描くのが好きで今も暇さえあれば勉強よりも絵を描いている。書くのは主に身近な物の模写ばかりだ。

目の前の物に静かに向かっていれば嫌な事を忘れるから。そして気づけば夢中で自分の目で見た物を命を吹き込むように再現していく作業は、寂しくて悲しい心を一瞬忘れることができるから。

「水彩画かな?」

私はもぞもぞと布団から顔だけ出すと窓辺の方に体を向けた。そして月明かりの下で自分のスマホをのぞき込む。

シロクマのマスコットがこちらに向かってにこりと微笑んでいて、私は気付けばふっと笑みが零れていた。私は『寂しがり屋専門・こころの相談所 シロクマ』のサイトの紹介文に目を通していく。

多くの情報は書かれてはいないが、二十歳以上なら誰でも登録可能で、利用料金は無料。登録後いま抱えている心の悩みや相談ごとを送れば、このサイトの運営者であるシロクマ先生が返信してくれるシステムのようだ。

(でもこれ……出会い系とか、パパ活とかじゃないのかな)

誰でもいい。誰かに今の自分の気持ちを聞いて欲しい。吐き出したい。そう思うのに見ず知らずの他人が無料で運営していることに不安と疑念が頭をよぎる。

死んでしまいたいなんて大それたこと思っていたくせに私は結局、臆病で小心者だ。

「え……」

──『最後に。生きることに疲れてしまった君へ ひとりじゃないよ』

スクロールしていって最後に記載されたそのメッセージを私は二度、三度と目でなぞった。

(ひとりじゃない……か)

私は覚悟を決めると『会員登録希望』ボタンを押す。すぐに画面が切り替わり、名前と年齢、性別、そしてメールアドレスの項目が出てくる。

「名前か……」

勿論、本名でなくて構わないとサイトには補足説明が書いてある。

「でもなぁ……なんでもいい名前って難しいな」
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