嘘からはじまる恋のデッサン
学校では陰キャと呼ばれる私に友達はいない。勿論、彼氏もいたことがない。さらには音楽や流行りのTikTotにもまるで興味ない。好きなドラマも漫画も推しもいない。

「何か好きなもの……から取れたらいいけど。私の好きなものって絵しかないしな……」

寂しがり屋な私のそばにあって一緒にいて心に寄り添ってくれるのは、ずっとキャンパスノートと鉛筆だけだった。

「あ……っ。そうだ。優……を訓読みにして『マサル』にしよ。これならシロクマ先生も男だと思うだろうし」

私はずっと前に絵画コンクールで銀賞を受賞したことを思い出した。書道が上手だった当時の校長先生が私の名前を賞状に記入しながらずっと男の子だと思っていたと、賞状授与のあとこっそり話してくれたことをふと思い出した。

「いいよね……自分を守る嘘だもん」

私は名前の項目に『マサル』、性別『男』と嘘の記載をしていく。

「えっと年は……十八歳だけど……仕方ない。二十歳に……するしかないよね」

名前や性別だけでなく、年齢を偽るのは更に悪いことをしている気がしてなんだか鼓動が落ち着かない。

本当はいけないことをしている。
だって今、私は自分を偽って嘘をついている。
そもそも地味とはいえ長い黒髪に華奢な体つき、更に声はどちらかといえば同世代の中でも高い。そんな明らかに見た目はどう見ても女の私が男だと嘘をつくなんて、どう考えてもありえない。

「生年月日……書かなくていいし。いいよね?」

私は誰もいない部屋で疑問符を吐き出しながらひととおり入力した新規登録の項目をじっと見つめた。

今なら後戻りできる。なかったことにできる。けれど、この時の私は自分の抱えた『寂しい』を誰かに聞いてもらわなきゃもう満足に眠ることもできそうもなかった。

私は年齢『二十歳』とすると最後にメールアドレスを入力して少し震える指先で『送信』ボタンを押した。それと同時に時計の針は深夜0時を回る。

「……送っちゃった……」

すぐに間違えたことをした気がして心臓がトクトクと駆け足になって来るが今更遅い。私はサイトのマスコットであるシロクマをただじっと眺める。

──ブーッ。

「わ……っ」

ふいに震えたスマホに私はスマホを落っことしそうになった。

見れば届いたメールの送信元は『寂しがり屋専門・こころの相談所 シロクマ』だ。開けば早速、サイトの運営者だと名乗るシロクマ先生からのメッセージが表示されていた。

「嘘……っ、はや」

──『マサルくん。はじめまして、クマシロと申します。サイトへの登録有難う。何でもここに吐き出してくださいね』

そのメッセージの感じから何となくシロクマ先生は男性な気がした。

(良かった、性別男の子にしといて。これなら変に誘われたりってこともなさそう……)

私はすぐに返信をする。

『初めまして。(まさる)です。宜しくお願いします』

──『いい名前だね、優しい心の持ち主なんだろうね』

一瞬、画面に釘付けになった。

親から私の名前の由来は心が優しい子に育って欲しいとい意味を込めたと聞いたことがあったが、他人から優しい心を、なんて初めて言われた。

でもそもそも『優』なんて文字、よく考えたら意味なんかそれしかない。それにその文字ならイメージだって『優しい』一択じゃないだろうか。このシロクマ先生とやらは誰にでもそんな取っ掛かりで会話してるのかもしれないな、なんて思った。

でも、私が偽名を使っている可能性が大いに高いとメールの相手であるシロクマ先生も理解した上でどこの誰かもわからない私の為にそんな言葉をくれたシロクマ先生にほんの少しだけ興味が湧いた。
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