嘘からはじまる恋のデッサン
『良かったら俺にもシロクマ先生の名前も教えてください』

私はちゃんと一人称を『俺』だと嘘を書けていることを確認してからメッセージを返す。

──『僕の名前は俊哉です』

(俊哉……としや?)

やっぱりシロクマ先生は男性なんだと思うと共に今どきの子にしては古風な名前から私より随分、年上の男性の気がした。

(三十代から四十代とか?)

そんなどうでもいいことが頭に浮かんでから私は首を振った。

「どうせ相手も偽名だし、シロクマをマスコットにするくらいだから、お腹がぽっこり出たおじさんじゃん。ってかそんなこともどうでもいいし……」

やっぱりこんなとこに登録しなきゃよかった。

なんかこんな雰囲気でいきなり『親が不仲で生きるのに疲れたとか』『明日には消えてなくなっちゃいたい』なんて重すぎる。

私はサイトを閉じるとスマホの画面を暗くして枕の横にそっと置いた。私から送らない限り向こうから送って来ることもないだろう。そんな気がした。

(はぁ……余計眠れないや……)

──ブルッ

(あれ?)

布団に潜り込んだのもつかの間、私はすぐに震えたスマホに手を伸ばした。

(もしかして……)

──『此処は寂しいを吐き出す場所だからいつでも寂しいを落としていいからね。マサル』

私は暫くその画面を眺めていた。

寂しいことを『言う』とか『書く』とかじゃなくて、『落とす』って言葉が印象的だった。

こんな世間から見たら可哀そうな私が寂しいを吐き出していいんだって、辛くなったら寂しさも涙も落っことしちゃっていいんだってどこかほっとした。

私は気付けば指先で、今の心のありのままをただ吐き出していた。そして真夜中の星空に向かってこの世のどこかにいる俊哉(としや)にメールを飛ばす。

今思えば泣き虫で言いたいことが上手く言えない寂しがり屋の私は、この時すでに俊哉への淡い恋心が芽生えていたのかもしれない。
< 5 / 28 >

この作品をシェア

pagetop