嘘からはじまる恋のデッサン
気づけば、私はメッセージの中に散りばめられている俊哉からの優しい言葉にいつの間にか心が救われるようになっていた。そして俊哉自身のことについてもメールで会話するたびにもっと知りたいと思うようになっていた。

『うん、わかった。そういえば話は戻るけど、俊哉先生はいつもひとりでなにしてたの?』

──『絵を描いてたかな』

(え……っ)

『もしかして水彩画?』

私はそうすぐに聞き返した。『寂しがり屋専門・こころの相談所 シロクマ』のサイトのヘッダーに使われているシロクマは繊細なタッチながら愛嬌があり、更には丁寧に何度も重ね塗りされた水彩絵の具の色使いが見事だったから。

──『マサルよくわかったね。そうだよ、模写も好きだけど水彩絵の具で色を付けていく瞬間が一番好きかな。命を吹き込んでるみたいでさ』

私は俊哉からの返事を呼吸を止めて眺めていた。

(絵に命を吹き込む……同じことを考える人がいるなんて……)

この広い世界でたったひとりぼっちだと思ってた私は、この世のどこかに自分と同じことを思う人がいるという事実に心があたたかくなるのを感じた。

(……私だけじゃないんだ……)

まったく同じ人間なんていない。でも人間は弱いから。自分と同じ部分をできるだけ多く持つ、仲間と呼べる存在を無意識に探してしまう生き物なんじゃないだろうか。

私は私の中の心の僅かな一部分だけでも同じことを思えて共感できる俊哉がいることが素直に嬉しかった。

そして俊哉とこうやってメールでやりとりしていく中でもっと俊哉のことを知りたい、知ってみたいと思う気持ちが日増しに強く芽生えていった。いままで友達と呼べる存在ができなかった私にとって俊哉の存在はどこの誰かわからないのに赤の他人のような感覚ではなく、すでに自分の中で想像する友達と呼べる存在に近くなっていたと思う。
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