嘘からはじまる恋のデッサン
「えっと、あのね……」

クラスの子とほとんど会話をしない私が話しかけたからかもしれない。長谷川さんが少し驚いたような顔をしてから小さく口を開いた。

──『ミステリー小説なの。赤川太郎の寝台列車あかつき連続殺人事件』

「えっ、そうなんだ。あの、勝手に童話とかファンタジーとかなのかと思ってた」

まさか長谷川さんが殺人の要素があるものを好んで読んでいるとは全く想像もしていなかった。

「よく言われる。でも私も意外だった。いつも春野さんって放課後ひとりで何書いてるんだろうって気になってたんだけど、あんな絵が上手だなんて……」

「えと。あの私もびっくりした……。長谷川さんがまさかミステリー小説好きだなんて」

「ふふ、本当だね。お互い知らないことだらけだね。あ……っ、えと、やっぱりいい」

「えっと……どうかした?」

「あの……ほんともし良かったらなんだけど……今度クラスのクリスマス会で皆んなに配る栞なんだけど、私、絵が下手だからイラスト書くの困ってて……良かったら春野さん書いてくれたら助かるなって……」

「え、私でいいの?」

「勿論! 春野さんが嫌じゃなかったら……。みんな驚くし喜ぶと思う、春野さんの絵ってなんだかあったかくて優しい感じがするから」

その言葉が嬉しいのに気恥ずかしくて私は長谷川さんに小さく頷くと、初めて学校で笑った。
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