ブラッドレッドの繋がり
「……」
目の前に立っていた男の人は、私の目線を合わせるかのように同じくしゃがみこみ、チョコを持ってふくらんでいた手を差しのべる。
私の手を優しく引っ張り、手のひらにチョコを二つ置いてくれた。
潮の匂いがする風がフワッと吹き、男の人が一瞬笑う。その刹那は優しい笑顔と潮風と共に流れる。
お礼も言えず
名前も言えず
貰ったチョコを持つ手も固まる。
「またな」
男の人は行ってしまった。
波の音だけがやけに耳に残った。
5歳の夏の出来事。