ブラッドレッドの繋がり



「……」


 目の前に立っていた男の人は、私の目線を合わせるかのように同じくしゃがみこみ、チョコを持ってふくらんでいた手を差しのべる。
 私の手を優しく引っ張り、手のひらにチョコを二つ置いてくれた。


 潮の匂いがする風がフワッと吹き、男の人が一瞬笑う。その刹那は優しい笑顔と潮風と共に流れる。


 お礼も言えず

 名前も言えず

 貰ったチョコを持つ手も固まる。





「またな」




 男の人は行ってしまった。


 波の音だけがやけに耳に残った。



 5歳の夏の出来事。



< 4 / 78 >

この作品をシェア

pagetop