名ばかりの妻なのに、孤高の脳外科医の最愛に捕まりました~契約婚の旦那様に甘く独占されています~【極甘婚シリーズ】

「ほら」

 そう言って祐飛がぶっきらぼうに渡してきたのは、ファブリックレースとオレンジの包装紙に包まれたブーケだった。
 包まれている花は……。

「デイジー?」
「デイジーが一番好きなんだろ?」

 祐飛が買ってきたのはデイジーのプリザーブドフラワーのブーケだった。
 雛未は思わず目を瞬かせた。

(な、んで……?)

 デイジーの和名は『雛菊』という。何を隠そう雛未の名前はデイジーからとられたものだ。
 でも、なぜ祐飛が知っているのか?
 
「私、デイジーが一番好きだって祐飛さんに話しましたか?」
「昔にな」
「昔?」
「そろそろ思い出してもらわないと困る」
 
 祐飛はそう言うと、雛未の額にそっとキスをした。
 祐飛らしからぬ気障な行動と不器用な笑顔にトクンと胸が高鳴る。

(変なの……)

 思い出すもなにも、祐飛と知り合ったのは三月の終わりのことだ。
 いくら物覚え悪くてもここ数か月の出来事なら覚えているはず。
 まるで、もっと昔に会ったことがあるみたいな言い方だ。

(私達……あれが初対面じゃないの?)

 記憶の糸を手繰り寄せ考え込んでいると、しびれを切らした祐飛に肩を小突かれる。

「帰るぞ」
「あ、はい……!」

 掘り起こしていた記憶は、砂の城のように一瞬にしてかき消された。
 雛未はデイジーのブーケを抱えながら、祐飛の後をついて行った。

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