名ばかりの妻なのに、孤高の脳外科医の最愛に捕まりました~契約婚の旦那様に甘く独占されています~【極甘婚シリーズ】
その夜、十時頃帰宅した祐飛は、雛未にダイニングチェアへ座るように言った。
「話って……なんですか?」
「國治おじさんの容体についてだ」
雛未は息を呑んだ。
祐飛が家の中で若狭議員の名前を口にするのは初めてのことだった。
「一般に脳出血・脳梗塞は3つのステージに分けられる。急性期、回復期、慢性期だ」
祐飛は雛未にも理解できるように、易しい言葉を選んでくれた。
「國治おじさんは既に急性期を脱していて、命を落とすような病変が起こる危険性は低い。生命維持に必要な脳の機能は損なわれていないし、本来ならいつ意識が戻ってもおかしくない。だが、なぜか昏睡状態が続いている。そして、今後も続くことが予想される」
「つまり……」
「國治おじさんは一生目覚めないかもしれない」
雛未はぎゅっと唇を噛み締めた。
あまりにむごい知らせだった。残酷な現実を突きつけられ、視界が潤んで歪んでいく。
「このまま眠り続けるの?」
「仮に目を覚ましても、感覚障害や半身麻痺が残る可能性が高い。雛未が望むような受け答えができる状態まで回復するか、現段階ではわからない」
祐飛はあえて、雛未に希望を持たせないように一切の可能性の芽を摘んで行った。
現実逃避を促す甘い言葉で惑わせては、後が辛いだけだ。