名ばかりの妻なのに、孤高の脳外科医の最愛に捕まりました~契約婚の旦那様に甘く独占されています~【極甘婚シリーズ】
雛未は昼休憩の合間を縫い、売店でジュースやお菓子などの軽い手土産を購入し、特別室のナースステーションに向かった。
ナースステーションは受付カウンターの前の廊下を歩いたすぐ先にある。
ラウンドが終わったお昼の時間帯ということもあり、気が緩んでいたのか、看護師達はワゴンの脇に立ち作業をしながら楽し気に話していた。
「あーあ!不破先生、なんで結婚しちゃったんだろう!」
祐飛の名前が急に出てきて驚いた雛未は、ナースステーションに行くことに二の足を踏み、その場で聞き耳を立てた。
「やっぱり、失恋の痛みには勝てなかったんじゃない?」
「え?なにそれ?」
「整形外科の藤井先生から聞いたの。藤井先生、不破先生と小中高と同じエスカレーター式の学校に通っていたらしいんだけど、祐飛先生ってずっと幼なじみに片想いしてたんだって」
看護師達の話を聞いて、差し入れが入った紙袋を持つ手に力がこもっていく。
(幼なじみ……?)
雛未が知っている祐飛の幼なじみの女性はひとりしかいない。思わず祈るような気持ちで目を瞑る。
「相手は政治家のひとり娘で、祐飛先生はこの病院を継がないといけないから、政治家にもお婿さんにもなれなかったって話らしいよ?」
「ねえ!ちょっと……!」
ひとりの看護師が雛未の存在に気づき、慌てて仲間の肩を揺すった。
祐飛の話に花が咲いていた三人の看護師の顔が、みるみるうちに青ざめていった。
ベリが丘病院で働いていて、雛未が祐飛の妻だと知らない人はいない。