名ばかりの妻なのに、孤高の脳外科医の最愛に捕まりました~契約婚の旦那様に甘く独占されています~【極甘婚シリーズ】
「失礼します」
今朝の朝刊を携えた雛未は三号室の扉を開けるなり、目を見開いた。
若狭議員が壁の手すりに掴まり、床にうずくまっていたからだ。
「大丈夫ですか!?」
雛未は若狭議員に駆け寄ると、怪我がないか身体のあちこちを確認した。
無理は禁物だと言われながらも、若狭議員はたびたび室内で自主トレーニングに励む姿が目撃されている。
「ああ、だいじょうぶだ。すこしつまずいた」
麻痺のせいで聞きづらくなっているものの、意味は十分伝わった。
「お手伝いします」
雛未は若狭議員の左側に立ち、腕を支えた。
若狭議員は杖を持ち、一歩一歩ゆっくりとベッドへと戻り始めた。
身長は若狭議員の方が高いものの、チューブからしか栄養を摂取出来なかった身体は痩せ細り、筋力の衰えは顕著だった。
倒れる前はどちらかといえば恰幅が良かったこともあり、かつての写真と比べるとやや頼りない。
(この人が……私のお父さんなの……?)
生まれて初めて感じる父親という存在に、雛未は不思議なものを感じていた。
無事に若狭議員をベッドまで送り届けると、本来の目的である新聞を渡していく。