名ばかりの妻なのに、孤高の脳外科医の最愛に捕まりました~契約婚の旦那様に甘く独占されています~【極甘婚シリーズ】


「申し訳ありません。患者さんの個人情報に関しては関係者以外の方にお話しできません」
「あはは……。そう、ですよね……」

 総合診療案内のカウンターに立つ女性は絵に描いたような愛想笑いと、マニュアル通りの口調で雛未を容赦なく追い返した。
 雛未はなす術なくその場から立ち去り、外来患者が行き交う正面入口から建屋の外へと飛び出した。

(まあ、普通に考えたら教えてもらえるわけないよね)

 雛未は自分の無鉄砲さを素直に反省した。
 職員はあくまで職務に忠実だった。
 『若狭國治議員はどちらの病棟に入院していますか?』と、何も考えずに尋ねた雛未が悪い。
 きっと、良からぬことを企む要注意人物だと思われたに違いない。
 正面入口の外には、テレビカメラを構えた報道関係者があちこちに立っていた。
 若狭議員が本会議で倒れてから既に五日が経過していたが、これでも幾分か減った方なのだろう。
 雛未の父親……かもしれない若狭國治という代議士は、次期内閣総理大臣の呼び声も高い傑物だ。
 内閣官房長官を始めとする主要ポストを歴任し、強敵がひしめく政治の世界で確固たる存在感を示してきたその辣腕には、国民の期待も大きかった。
 現在支持率が低迷している内閣が衆議院を解散するのは時間の問題とされている。ひとたび総裁選が行われれば、次の内閣総理大臣に選出されるのは若狭議員に違いないというのが下馬評だ。
 ――病床に伏している今、国民の落胆の声はこのベリが丘にも届いていることだろう。

< 16 / 190 >

この作品をシェア

pagetop