名ばかりの妻なのに、孤高の脳外科医の最愛に捕まりました~契約婚の旦那様に甘く独占されています~【極甘婚シリーズ】
「マンションへ戻る前に寄りたいところがある。いいか?」
「はい」
祐飛はタクシーに乗り込むと、とある住所を運転手に告げた。
祐飛が立ち寄ったのはベリが丘のビジネスエリアにある聖の事務所だった。
数ヶ月前までは國治の事務所だったが、引退に伴い職員はそのままにして、主だけが入れ替わる形で引き継いだのだ。
今はきたる補欠選挙に向けて、着々と計画が進められている。
聖は祐飛がやってくると、珍しいものでも見たように驚いていた。
「祐飛?どうしたんだ?雛未さんまで連れてきて……」
「聖」
祐飛は聖と顔を合わせるなり藍色のネクタイを掴み、ぐいっと顔を引き寄せた。
「いつまでもグズグズしてると俺と雛未の子どもが先に生まれてくるからな」
当然のごとく子どもの話がでてきたせいで、雛未は顔を真っ赤に染めた。
(こ、こども!?)
一方、喧嘩を売られた聖は大きく目を見開き、祐飛の真意を読み解こうとしていた。睨み合いは数秒間続いたが、やがて聖は祐飛の手をネクタイから振り払った。
「それはどうかな?」
それは宣戦布告という名の激励に違いなかった。
祐飛に焚きつけられた聖は実に清々しい顔で堂々と喧嘩を買ったのだった。