名ばかりの妻なのに、孤高の脳外科医の最愛に捕まりました~契約婚の旦那様に甘く独占されています~【極甘婚シリーズ】
「僕にとって兄は憧れであり、目の上のたんこぶのような妬ましい存在でもあった」
弓親は國治と同じ顔でほの暗い笑みを浮かべた。
「今でこそ、作家先生と呼ばれているけれど、当時の僕は単なる小説家志望のフリーターでね。兄の小間使いをして日銭を稼いでいた。兄に頼まれて訪れた花屋で知り合ったのが菊香だ。注文表に書いた名前を見て、彼女は僕が『若狭國治』だと勘違いした」
「なぜ本当のことを言わなかったんです?訂正の機会はいくらでもあったはずでしょう?」
たまりかねて落ち度を責めると、弓親はしきりに恥じ入った。
「華々しく活躍する兄に成り代われたようで、嬉しかったんだ。同じ顔、同じ声で生まれたのにどうして僕だけ養子に出されたのか。あの頃はいつも劣等感に苛まれていた」
國治に成り代わることは、弓親にとって禁断の味だったのだ。
双子の彼らにとって、光と闇は表裏一体。
國治が脚光を浴びる一方で、弓親は悔しい想いをしていたのだ。