名ばかりの妻なのに、孤高の脳外科医の最愛に捕まりました~契約婚の旦那様に甘く独占されています~【極甘婚シリーズ】
「彼女を愛し始めていると自覚した時にはもう遅かった。今度は幻滅されるのが怖くなり、自分の正体が打ち明けられなくなった。そうやって先延ばしにしているうちに、彼女は故郷に戻ることになり、程なくして手紙のやり取りが始まった。けれど、ある日突然手紙の返信が来なくなった」
弓親の声は次第に震えていた。
「ひと月ほどして、僕の書いた手紙が未開封の状態で送り返されてきた。彼女の父親だという人から『娘が別れたがっているから、もう手連絡するな』という趣旨の手紙が添えられていたよ」
雛未は口元を手で覆った。
雛未の亡くなった祖父は昔ながらの価値観を持ち、なににつけても厳格だった。
孫である雛未には優しかったが、どこの馬の骨とも知らぬ都会の男に、孕まされた母には当たりが強かった。
祖父が関与していたことは、おそらく母も知らなかっただろう。
手紙が開けられていなかったということは、祖父はこっそり母宛の手紙をポストから抜き取って隠していたのだ。
「菊香が妊娠しているとは知らなかったんだ。知ってさえいれば……」
最初の手紙の消印は雛未が生まれる八か月前の日付だ。
母の妊娠は故郷に戻ってから、判明したに違いない。
弓親が妊娠の事実を知らなかったということは、母が弓親宛に出した手紙も、投函されずどこかで捨てられていたのかもしれない。
あの祖父ならやりかねない。