名ばかりの妻なのに、孤高の脳外科医の最愛に捕まりました~契約婚の旦那様に甘く独占されています~【極甘婚シリーズ】
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「あれでよかったのか?」
弓親のマンションから帰る途中、祐飛は雛未に問いかけた。
「はい。もういいんです」
兄の名前を騙り、母と交際を続けた弓親をあれ以上責める気にはなれなかった。
一時は楽しくても、誰かの代わりを演じるのが、どれほど辛いかは身をもって知っている。
それに……。
「ひとつ思い出したことがあるんです」
雛未はありし日の母の姿を頭の中に思い浮かべた。
「うちのお母さん、特別読書好きってわけでもないのに、桜塚幸彦先生の新刊だけはわざわざ車で三十分以上かけて、買いに行ってたんです」
桜塚幸彦は、弓親のペンネームだ。
弓親はベリが丘をモデルとした、恋愛小説で新人賞を受賞し、文壇デビューを果たした。デビュー作は後に映画化もされ、大ヒットを記録している。