名ばかりの妻なのに、孤高の脳外科医の最愛に捕まりました~契約婚の旦那様に甘く独占されています~【極甘婚シリーズ】
「きっと、弓親さんの正体に気づいていたんだと思います。お母さんが許しているんだから、娘の私がとやかく言うことでもないのかなって思って……」
母はいつ桜塚幸彦が彼だということに気づいたのだろう。
正体が分かれば、出版社やSNSを通じて本人と連絡がとれそうなものだけれど、母はあえてそうしなかった。
正体を曝け出せなかった弓親の弱さを許し――なお愛した。
新刊を読む母はいつも嬉しそうだった。
手紙を捨てずに残しておいたのは、雛未への自慢のつもりだったのかもしれない。
思い残すことがないと言っていた母の言葉が嘘ではないとわかっただけで、雛未には十分だった。
「……そうか」
祐飛は雛未と繋いでいる手に力をこめた。
控えめに言って、ものすごく照れる。
(普通の恋人同士みたい……)
恋人のように手を繋いで外を歩くのは、ベリが丘に来てから初めてのことだった。
この際だからと、雛未は思いきって祐飛の腕に抱きついた。
交際ゼロ日で結婚に至ったせいで、恋人同士でしかできないことをたくさんやり残したままだ。
「このまま散歩して帰りませんか?」
「ああ」
天気も良かったので、二人は遠回りをして帰ることにした。
祐飛とゆっくり出掛けられた日は、まだ片手で数えるほどしかない。
もう少しだけデート気分を味わっていたかった。