名ばかりの妻なのに、孤高の脳外科医の最愛に捕まりました~契約婚の旦那様に甘く独占されています~【極甘婚シリーズ】
「それにしても、業者用の出入口を使わせてもらえて助かった。俺達はマスコミに顔を覚えられているからな」
「気をつけて帰れよ」
「祐飛くんも、あんまり無理しないでね」
「ああ」
親し気に会話をしていた三人だったが、やがて右端のスーツを着た男性が女性を気遣うように肩を抱いた。
他人よりも近い距離感から察するに、あの二人は夫婦なのだろう。
スーツの男性が言っていたように、中庭の中央を走るガラス張りの渡り廊下の向こう側には、来客用とは異なる小さな駐車スペースがあった。
二人は駐車されていた黒塗りのセダンの後部座席に揃って乗り込んだ。
そのままセダンが走り去っていくのをぼうっと見送っていると、一人残された白衣の男性がおもむろに雛未の方を振り返った。
まずいと思った時には、目があった後だった。
「誰だ!ここで何をしている!」
開口一番、この場にいることを見咎められ、雛未はビクンと身体を揺らした。その拍子に、肩に掛けていたトートバッグがスルリと地面へ落ちた。
「あっ!」
バッグの中身を盛大にぶちまけてしまい、雛未は慌てて身をかがめた。