名ばかりの妻なのに、孤高の脳外科医の最愛に捕まりました~契約婚の旦那様に甘く独占されています~【極甘婚シリーズ】

「大丈夫か?」
「すみません!道に迷ってしまって……!それで……」
「いきなり怒鳴って悪かった」

 しどろもどろで言い訳をすると、意外なことに男性は己の非を素直に認め、雛未の荷物を拾うのを手伝ってくれた。

「これもあんたの?」

 彼は雛未が御守り代わりに持参していた四葉のクローバーの押し花を手に持ち、食い入るようにジッと眺めていた。

「そうです。拾っていただいて、ありがとうございます。とても大切なものなんです」
「大切なもの、ねえ……」

 口の端を軽く持ち上げただけの軽薄な微笑みに、なぜか心拍数が上がっていく。
 押し花なんか大事に持ち歩いているなんて、子供っぽかった?

「か、返していただけますか!?」

 雛未は押し花を返すよう、おっかなびっくり彼に催促した。無事に手元に戻ってくると、それこそ大事にバッグの中へとしまう。
 ひと通りバッグの中身を拾い集めると、二人は地面から立ち上がった。

「この渡り廊下を左に曲がって壁沿いに真っ直ぐ歩くと、総合診療受付のある総合棟だ。行きたい場所があるなら、あとは受付で聞いてくれ」

 男性は白衣のポケットに手を突っ込んだまま、顎で方角を示した。
 不審者として警備員に突き出されないということは、雛未の言い分を認めてくれるらしい。

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