名ばかりの妻なのに、孤高の脳外科医の最愛に捕まりました~契約婚の旦那様に甘く独占されています~【極甘婚シリーズ】
「俺が共犯者になってやる」
「でも……」
「特別室に入りたいんだろう?」
祐飛は『父親に会いたいんだろう』とは決して言わなかった。
感情論を抜きにすれば、祐飛の提案は魅力的だった。現状、他に若狭議員に近づく方法がない。
正攻法で近づくには、社会的立場があまりにも違い過ぎる。
この機会を逃せば、若狭議員と対面することは二度と叶わない。
(でも、いきなり結婚だなんて……!)
祐飛については、ベリが丘病院に勤務している医師ということしか知らない。年齢も性格もわからない男性と本当に結婚できるのか?
――雛未の心は揺れていた。
返事をためらいぎゅっと目を瞑ったその時、沈黙を破るように祐飛のモバイルフォンが鳴った。
「ああ、わかった。すぐに戻る」
素早い動作でモバイルフォンに応答した祐飛は、相手との通話を手短に済ませ、雛未に改めて向き直った。
「話の途中だが急患だ。ベリが丘にはいつまでいる?」
「明後日の昼まで……」
「明日の十七時にもう一度ここに来い。返事を聞く」
祐飛は一方的にそう言うと、雛未の返事を待たずに駆け足で建屋の中へと消えて行った。
「行っちゃった……」
ポツンとひとり取り残された雛未は、途方に暮れるばかりだった。