名ばかりの妻なのに、孤高の脳外科医の最愛に捕まりました~契約婚の旦那様に甘く独占されています~【極甘婚シリーズ】

 ◇

「疲れた……」

 やっとの思いでベリが丘病院から脱出した雛未はホテルに着くなり、ベッドへ倒れ込んだ。
 この日、雛未がチェックインしたのはベリが丘の東側に位置するビジネスエリアにあるシティホテルだ。
 十二階のシングルルームの窓からは、行きがけのバスで見かけたブルームーンホテルの姿が見えた。
 その向こうには、雄大な大海原が広がっている。夕暮れ時の今は、太陽に照らされ真っ赤に染まっていた。

「綺麗……」

 泣きたくなるほど、綺麗な夕焼けだった。
 ベリが丘はどこもかしこも美しく輝いていた。
 街を東西に貫くメインストリート。海沿いの公園。庭園の素敵なオーベルジュ。お洒落なカフェ。人気のパティスリー。
 誰もが美しいと称賛するその街を、雛未はひとりぼっちで訪れている。
 
 実は雛未がこの街にやって来たのは二度目……いや三度目だ。
 母が亡くなる半年前にも一度、ベリが丘を訪れている。
 ――あの時は、まだ母も元気だった。

(随分と昔のことみたい……)

 雛未は窓にコツンと額を押し当てながら、しばし思い出に浸った。
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