名ばかりの妻なのに、孤高の脳外科医の最愛に捕まりました~契約婚の旦那様に甘く独占されています~【極甘婚シリーズ】
母の思い出の地を巡りながら、雛未はこれから自分が何をすべきかひたすら考えていた。
残された時間が少ない中で、母のために何ができるのか。
未来への漠然とした不安と、変えられない過去への後悔が入り混じる二泊三日は、あっという間に過ぎてしまった。
『連れてきてくれてありがとう、雛未。これで思い残すことはないわ』
帰路に着く際、母は笑いながら雛未に感謝を告げた。
心ここに在らずの雛未の様子に気づいていたのかもしれない。
(お母さんは、本当に心置きなく旅立てたの?)
手紙を見つけた今ならわかる。
あの時、雛未に言ったセリフにはひとつだけ嘘が隠れていた。
真に思い残すことがないのであれば、そもそも人生最後の刻にベリが丘を訪れようと思わないのではないか?
若狭國治との別離を完全に受け入れていたとしたら、手紙なんかさっさと捨てていたはずだ。
どうして後生大事にクッキー缶の中にしまっておいたのか?
確かめようにも、既に母は灰になり、冷たい墓石の下で永遠の眠りについている。