名ばかりの妻なのに、孤高の脳外科医の最愛に捕まりました~契約婚の旦那様に甘く独占されています~【極甘婚シリーズ】
(あーあ……。本当にどうしよう……)
まさか、人生初のプロポーズがあんな形でやってくるとは。
結婚に夢があるというわけでもないが、相手くらいは自分で選べるものだと思っていた。
ベンチに身体をあずけながら奇妙な身の上について考えていると、足元にキャラクターがプリントされたボールが弾んで転がってくる。
「すみませーん!」
ボールを拾い上げると持ち主と思しき親子が、こちらに向かって手を振っていた。
雛未はベンチから立ち上がり、親子の元にボールを軽く投げてやった。
「お姉ちゃんありがとう!」
ボールを受け取った五歳くらいの可愛い女の子が、お礼を言ってくれた。
雛未は女の子に手を振り返すと、女の子の両親が会釈をした。
(……思い出した)
再びベンチに腰を下ろした雛未は、遠い昔の記憶に思いを馳せた。
母と一度も父親について話をしたことがないというのは誤りだった。
ちょうどあの女の子と同じぐらいの年齢の時だったと思う。