名ばかりの妻なのに、孤高の脳外科医の最愛に捕まりました~契約婚の旦那様に甘く独占されています~【極甘婚シリーズ】
釈然としないままデザートを食べ終わり、食後の紅茶も完飲したところで、おもむろに祐飛が椅子から立ち上がる。
「そろそろ二階に行くか」
「へ?」
「スーツケースはもう運ばれているはずだ」
「どういうことですか?」
意味がわからず、雛未はアホみたいに二回も尋ね返した。
「家の方は引っ越しの荷物が届いたばかりだ。二階に部屋をとってある。今夜はここに泊まる」
「あ、そういうこと……」
いずれは別居することになるだろうが、結婚後しばらくは祐飛のマンションに厄介になる予定だ。
ある程度の覚悟はしていたものの、夫婦を装うのは大変だ。
相手が祐飛のような、相談なしに物事をほいほい決めていくタイプなら尚更だ。
(事前に言ってくれたら、部屋ぐらい自分でとったのに)
泊まるだけならこんな高そうなオーベルジュの一室でなくとも、シティホテルで事足りるはずだ。
レストランを出て、客室のある二階の階段を上っている途中で、雛未ははたと気がつく。
よくよく考えたら、このオーベルジュにシティホテルのようなシングルルームがあるとは思えない。
「もしかして……祐飛さんも一緒に泊まるんですか?」
「……ああ」
祐飛が当たり前の如くそう答えると、雛未に動揺が走る。
(お、同じ部屋で寝るの!?)
打算だらけの契約結婚ではあるが、まがりなりにも雛未は今日から祐飛の妻になった。
夫婦になった初日にやることといえば、ひとつしかない。
手紙の差出人のことばかりに気を取られていて、『そういうこと』が頭からすっかり抜けていた。