名ばかりの妻なのに、孤高の脳外科医の最愛に捕まりました~契約婚の旦那様に甘く独占されています~【極甘婚シリーズ】
「うわ!懐かしい……」
懐かしさがこみ上げた雛未は、一番上に置いてあった四葉のクローバーの押し花を手に取った。このクローバーはきっと母と一緒に近所の原っぱで拾ったものだろう。
母は花が好きで、玄関にはお手製の押し花アートが飾られ、居間にはプリザーブドフラワーが吊るされている。
雛未も昔から母の真似をして一緒に押し花を作っていた。
ラミネート加工された四つ葉のクローバーの押し花は、茶色く変色しているものの、まだ原形を保っていた。
(あ、こんなことをしている場合じゃなかった)
懐かしさに浸っているばかりでは終わるものも終わらない。
我に返った雛未は押し花を缶の中にしまうと、もうひとつのクッキー缶に手を伸ばした。
てっきり同じような思い出の品が出てくるかと思いきや……。
「あれ?」
クッキー缶を開けた雛未は、思わず首を傾げた。
缶の中には麻紐で束ねられた封筒が三束ほど入っていたのだ。
品の良い若葉色の洋型封筒。宛名として記されているのはどれも母の名前だった。癖のない流暢な字に好感が持てる。
スマホとインターネットが普及した昨今では、手紙を書いて他人に送ること自体が珍しい。
わざわざ缶に入れて取っておくなんて、よほど大事な手紙だったのだろうか。