名ばかりの妻なのに、孤高の脳外科医の最愛に捕まりました~契約婚の旦那様に甘く独占されています~【極甘婚シリーズ】

「うわ!懐かしい……」

 懐かしさがこみ上げた雛未は、一番上に置いてあった四葉のクローバーの押し花を手に取った。このクローバーはきっと母と一緒に近所の原っぱで拾ったものだろう。
 母は花が好きで、玄関にはお手製の押し花アートが飾られ、居間にはプリザーブドフラワーが吊るされている。
 雛未も昔から母の真似をして一緒に押し花を作っていた。
 ラミネート加工された四つ葉のクローバーの押し花は、茶色く変色しているものの、まだ原形を保っていた。

(あ、こんなことをしている場合じゃなかった)

 懐かしさに浸っているばかりでは終わるものも終わらない。
 我に返った雛未は押し花を缶の中にしまうと、もうひとつのクッキー缶に手を伸ばした。
 てっきり同じような思い出の品が出てくるかと思いきや……。

「あれ?」

 クッキー缶を開けた雛未は、思わず首を傾げた。
 缶の中には麻紐で束ねられた封筒が三束ほど入っていたのだ。
 品の良い若葉色の洋型封筒。宛名として記されているのはどれも母の名前だった。癖のない流暢な字に好感が持てる。
 スマホとインターネットが普及した昨今では、手紙を書いて他人に送ること自体が珍しい。
 わざわざ缶に入れて取っておくなんて、よほど大事な手紙だったのだろうか。

< 8 / 190 >

この作品をシェア

pagetop