名ばかりの妻なのに、孤高の脳外科医の最愛に捕まりました~契約婚の旦那様に甘く独占されています~【極甘婚シリーズ】
5.それは花火のように

 長かった梅雨もようやく終わりが見えてきた、七月上旬。
 ベリが丘には最後の長雨とも呼べる、しとしととした霧雨が降り注いでいた。
 雛未がベリが丘にやってきた春から季節はひとつ巡り、随所に夏の気配が感じられるようになった。
 あれほど隆盛を極めていた桜はすべて散り、代わりに紫陽花が人々の目を楽しませるようになった。
 この頃になると特別室の患者の顔ぶれも様変わりしたが、若狭國治は未だに三号室に入院している。
 三ヶ月前と変わらず、今も眠り続けていた。

「今日も雨ですか。気が滅入りますね……」

 空調が効いている院内だが、雨の日特有のジメジメとした暑さは、外気温とは別に不快感を高めていく。
 茉莉は首元を手で仰ぎながら、隣にいる雛未に話しかけた。
 
「本当に梅雨明けするんですかね?」
「予報通りならねー」
 
 今週末にも梅雨明けになると、テレビではこぞって報道されている。気象庁によると今年の夏は例年以上の酷暑となる見込みだ。
 海が近いベリが丘は海風が強いため、さほど気温が上がらず夏も比較的過ごしやすいと聞いた。

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