まだあなたを愛してる〜離縁を望まれ家を出たはずなのに追いかけてきた夫がめちゃめちゃ溺愛してきます〜
「俺達も行こう」
ジェイドは私を抱いたまま杖を掲げる。
ふわりと宙に浮き、エマの下へ向かおうと窓の外に出た。
少し先にいるエマは冷たい目で下に広がる光景を見ている。
「そうだったわね……これが本来、土の精霊に齎されたアーソイル公爵の持つ加護の力。地上の物をすべて地中に呑み込み新たな大地へ変える力」
そこには、先ほどよりはるかに大きさを増した穴があった。
入り口を赤い光がぐるぐると走り回る度に穴は大きさを増しているようだ。
その穴に、アーソイル公爵邸の美しく手入れされた庭園や街頭、さっき馬車で通ってきた石畳が崩れながら落ちていく。
剣呑な目つきで見ていたエマは、彼女にしがみ付きながら怯えていたマイアに何か告げると先に転移させた。
「ジェイド、ローラを連れて早くそこから離れて!」
邸の窓辺にいた私達に向け告げたエマの緊迫した声に、自分の力に酔いしれ一人高笑いをしていた公爵が気づいた。
宙に浮く私達の下へ近づいてくると、そこでようやく大きさを増した穴を目に映した。
外で働いていた使用人たちが大慌てで邸の中へと逃げ込んでいく姿が見える。
公爵は「やめろ、もういい」と穴の周りを走る赤い光に制止を告げた。
だが、声は届かなかったのか赤い光は走り続け、穴はどんどん大きくなっていく。
「もう十分だ、やめろ!」
アーソイル公爵が声を張り上げた時には、すでに庭園の半分が穴の中に消えてしまった。
「止まれと言っているのが分からないのか!?」
腹ただしく声を荒げる公爵の命令は大地の崩れる轟音にかき消され精霊の下へ届かないのだろう、一向に止まる気配がない。
何度も制止を告げている間に、穴はとうとう本邸の足下に辿り着いてしまった。
足場を失った公爵邸は大きく揺れ、バキバキと音を立て、ガラスや壁、柱を割りながら傾きだした。
邸の中から使用人達の悲鳴と逃げまどう足音が聞こえてくる。
「なぜだ! なぜ止まらない?」
公爵はカッと目を見開き私を見据えた。
「私には分かりません」
「お前の与えた力の所為でこうなったのだ! お前が止めろ」
「そんな事出来ません」
今大地に穴をあけているのは公爵の加護の力。
私に、その力を止める事なんて出来ない。
「お前の所為だ!」
公爵のあまりの剣幕に、怖くなった私はジェイドにしがみついた。
「ローラの所為だと? 彼女はあなたの望みを叶えただけだ」
ジェイドは私を強く抱きしめながら公爵に向け言い放つ。
それが気に食わなかったのか公爵はカッと顔を赤くした。
「嘘を吐け! その娘は胸の奥で私への恨み言を願っていたに違いない! 取り戻した力ですべてを失えばいいと願ったのだろう!」
公爵は私を捕まえ従えさせようと手を伸ばしてきた。ジェイドはサッと上空へと距離をとる。
「彼女に触れる事は許さない」
「貴様……」
公爵は怨色を見せ高い位置に移った私達を見上げている。
その様子を見ていたエマは首を横に振った。
「本来の土の精霊の加護は扱う事が難しいと言ったのに、自惚れて使うからこうなるのよ」
私達を睨んでいた公爵はエマの声にハッと閃いた顔になった。
「魔女! 始まりの魔女よ! お前ならば出来るだろう! 穴を、精霊たちを止めてくれ!」
「まぁ、ローラが無理なら私に頼むって事? いい、公爵閣下。たとえ凄い魔女の私であっても、出来る事と出来ない事があるの。そもそも魔法と加護の力は違う物。その穴を塞ぐことは可能だけれど、精霊たちがいる今は無理。精霊を操っているのはあなたなのだから、自分で何とかしなさい」
「出来ぬから言っているのだ!」
開口を回り続ける赤い光を見つめ、公爵は拳を握りしめる。
手にした力を見せつける為に公爵が操った精霊たち。
暴走をはじめた力を公爵は止める事が出来ずにいる。
今崩れかけている本邸とそれに連なる館、その奥には私が暮らした離れ、手入れをしていた庭、馬のいる厩舎もある。
それらがすべて落ちてしまえば……。
安全な場所に居る私達や、加護の力に守られている公爵は助かるけれど、邸の中にいる人々はなすすべなく落ちるしかない。
多くの命が奪われるかもしれないと考えるとゾッとした。
これまで虐げられてきたけれど、彼らの中には私を憐れみ手を差し伸べてくれた人もいた。
別荘に食料と一緒に本や服を届けてくれた人、厨房を使わせてくれていたコックのおじさん、裏庭の手入れをさせてくれた庭師のおじいさんも。
彼らを見過ごすなんて私には出来ない。
――私に与えられている力は対象に触れ願う事で叶う。
今、私が土に触れ精霊に止まって下さいと願えば……彼らは止まってくれるかもしれない。精霊が動きを止めれば、穴はエマが塞いでくれるはず。
だったら……。
「ジェイド、私を地上に下ろして」
ジェイドは私を抱いたまま杖を掲げる。
ふわりと宙に浮き、エマの下へ向かおうと窓の外に出た。
少し先にいるエマは冷たい目で下に広がる光景を見ている。
「そうだったわね……これが本来、土の精霊に齎されたアーソイル公爵の持つ加護の力。地上の物をすべて地中に呑み込み新たな大地へ変える力」
そこには、先ほどよりはるかに大きさを増した穴があった。
入り口を赤い光がぐるぐると走り回る度に穴は大きさを増しているようだ。
その穴に、アーソイル公爵邸の美しく手入れされた庭園や街頭、さっき馬車で通ってきた石畳が崩れながら落ちていく。
剣呑な目つきで見ていたエマは、彼女にしがみ付きながら怯えていたマイアに何か告げると先に転移させた。
「ジェイド、ローラを連れて早くそこから離れて!」
邸の窓辺にいた私達に向け告げたエマの緊迫した声に、自分の力に酔いしれ一人高笑いをしていた公爵が気づいた。
宙に浮く私達の下へ近づいてくると、そこでようやく大きさを増した穴を目に映した。
外で働いていた使用人たちが大慌てで邸の中へと逃げ込んでいく姿が見える。
公爵は「やめろ、もういい」と穴の周りを走る赤い光に制止を告げた。
だが、声は届かなかったのか赤い光は走り続け、穴はどんどん大きくなっていく。
「もう十分だ、やめろ!」
アーソイル公爵が声を張り上げた時には、すでに庭園の半分が穴の中に消えてしまった。
「止まれと言っているのが分からないのか!?」
腹ただしく声を荒げる公爵の命令は大地の崩れる轟音にかき消され精霊の下へ届かないのだろう、一向に止まる気配がない。
何度も制止を告げている間に、穴はとうとう本邸の足下に辿り着いてしまった。
足場を失った公爵邸は大きく揺れ、バキバキと音を立て、ガラスや壁、柱を割りながら傾きだした。
邸の中から使用人達の悲鳴と逃げまどう足音が聞こえてくる。
「なぜだ! なぜ止まらない?」
公爵はカッと目を見開き私を見据えた。
「私には分かりません」
「お前の与えた力の所為でこうなったのだ! お前が止めろ」
「そんな事出来ません」
今大地に穴をあけているのは公爵の加護の力。
私に、その力を止める事なんて出来ない。
「お前の所為だ!」
公爵のあまりの剣幕に、怖くなった私はジェイドにしがみついた。
「ローラの所為だと? 彼女はあなたの望みを叶えただけだ」
ジェイドは私を強く抱きしめながら公爵に向け言い放つ。
それが気に食わなかったのか公爵はカッと顔を赤くした。
「嘘を吐け! その娘は胸の奥で私への恨み言を願っていたに違いない! 取り戻した力ですべてを失えばいいと願ったのだろう!」
公爵は私を捕まえ従えさせようと手を伸ばしてきた。ジェイドはサッと上空へと距離をとる。
「彼女に触れる事は許さない」
「貴様……」
公爵は怨色を見せ高い位置に移った私達を見上げている。
その様子を見ていたエマは首を横に振った。
「本来の土の精霊の加護は扱う事が難しいと言ったのに、自惚れて使うからこうなるのよ」
私達を睨んでいた公爵はエマの声にハッと閃いた顔になった。
「魔女! 始まりの魔女よ! お前ならば出来るだろう! 穴を、精霊たちを止めてくれ!」
「まぁ、ローラが無理なら私に頼むって事? いい、公爵閣下。たとえ凄い魔女の私であっても、出来る事と出来ない事があるの。そもそも魔法と加護の力は違う物。その穴を塞ぐことは可能だけれど、精霊たちがいる今は無理。精霊を操っているのはあなたなのだから、自分で何とかしなさい」
「出来ぬから言っているのだ!」
開口を回り続ける赤い光を見つめ、公爵は拳を握りしめる。
手にした力を見せつける為に公爵が操った精霊たち。
暴走をはじめた力を公爵は止める事が出来ずにいる。
今崩れかけている本邸とそれに連なる館、その奥には私が暮らした離れ、手入れをしていた庭、馬のいる厩舎もある。
それらがすべて落ちてしまえば……。
安全な場所に居る私達や、加護の力に守られている公爵は助かるけれど、邸の中にいる人々はなすすべなく落ちるしかない。
多くの命が奪われるかもしれないと考えるとゾッとした。
これまで虐げられてきたけれど、彼らの中には私を憐れみ手を差し伸べてくれた人もいた。
別荘に食料と一緒に本や服を届けてくれた人、厨房を使わせてくれていたコックのおじさん、裏庭の手入れをさせてくれた庭師のおじいさんも。
彼らを見過ごすなんて私には出来ない。
――私に与えられている力は対象に触れ願う事で叶う。
今、私が土に触れ精霊に止まって下さいと願えば……彼らは止まってくれるかもしれない。精霊が動きを止めれば、穴はエマが塞いでくれるはず。
だったら……。
「ジェイド、私を地上に下ろして」