まだあなたを愛してる〜離縁を望まれ家を出たはずなのに追いかけてきた夫がめちゃめちゃ溺愛してきます〜
「ジェイド私ね、直接大地に触れて願えば、精霊の力を止める事が出来るかもしれないと思ったの」
 私の話にジェイドは小さく頷く。
「ローラの考えは分かっていたよ。でも君が危険を冒してまで公爵の後始末をする事はないだろう?」

 穏やかに話す彼の声は、いつもより低いように感じた。

 もしかして怒っている?
 私が公爵の為に力を使おうとしていると思っているから?
 それは違う……。公爵の為じゃない、それを言わなければ……。

 彼に伝える言葉を選ぶ私の様子に気づいたエマが代わりに話してくれた。

「ジェイド。あのね、ローラは公爵の為じゃなく、邸にいる人たちを助けよう思っているのよ」
「そんな事俺だって分かっています。だがこれまで、彼女を虐げてきた奴らをなぜ助けなければならないのですか?」

 そんな事はしなくていいと話すジェイドは冷たい目をしていた。

 言ってくれていることは分かっている。
 けれど……。

「優しくしてくれた人もいるの」
 だからどうしても助けたいのだと言ったけれど、ジェイドは首を横に振った。

「そんな一時の優しさだ。それぐらい誰だってできる。俺の両親だってそうだっただろう? 優しい言葉で君を……騙していた」

 新緑の目は悲し気に歪められた。

 一時の優しさは誰だってできる、そう彼は言ったけれど……。
 誰もが出来る事ではないと私は思う。

 生まれた時から疎まれ虐げられてきた私を哀れと思う者は多くいた。しかし声を掛けてくれた人は数えるほどだ。
 当然かもしれない。私を話すところを誰かに見つかり、上の者に報告されてしまえば公爵邸で働くことが出来なくなるかもしれないから。
 ……それでも、話しかけてくれた人たちがいた。
 ほんの少しの間ではあったけれど、彼らはジェイドと同じような優しい眼差しを私に向けてくれた。

「たとえ一時であっても、私は嬉しかったの」
「ローラ……」
 ジェイドは困った様に唇を噛みしめた。

「私にはこのまま何もせず彼らを見捨てるなんて出来ない」

 今の私は力を持っている。その力で彼らを助けられるかも知れない。けれど何もしなければ……。
「ジェイド……」
 願うように見つめると、彼は「分かった」と渋々返事をくれた。
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