まだあなたを愛してる〜離縁を望まれ家を出たはずなのに追いかけてきた夫がめちゃめちゃ溺愛してきます〜
 ――その時。

 耳を聾するような物音と人々の悲鳴が聞こえてきた。
 それは土台を失った建物が倒壊する音と逃げ遅れた人々の悲鳴。

「私の邸が! 財宝が!」

 声をあげる公爵の目の前で、半壊した邸は使用人たちを引き連れ穴へと落ちた。

 それらを呑み込んでもなお、穴は広がり続け残りの建物の土台を少しずつ削り取っていく。邸は大きく揺れながら穴へと傾いた。

 途端に公爵は真っ青な顔になり、自分を守る光を拳で叩きだした
「やめろ! そこには私の家族が!」
 残る建物のどこかに子息がいるのだろう。

「やめろ――っ! 止めろと言っているだろう! 私に従え!」
 公爵は大声で命令を下す。だが、光は止まる事なくそれどころかさらに動きを速くした。
 それは瞬く間に敷地全部に広がる穴を作り上げ、地上にあった全てを呑み込んだ。

「あああ――っ!!」
 深紅の目は絶望とともに見開かれる。

 穴の中へと消え去る邸を目で追っていた公爵は、ハッと顔を上げ私を見た。

「今すぐ地上に降り、私の家族を助けるのだ!」

「無理です……」

 そう答えて首を横に振ると、公爵は舌打ちをした。

 ……私だって、助けられるものなら助け出したい。
 けれど、私の力は対象に触れなければ使う事は出来ない。私が地上に降りても、落ちてしまった人々を救う事は出来ない。
 触れて願う事しか出来ない私では……。

「いい加減になさい、アーソイル公爵閣下」
 私への暴言を聞いていたエマは柳眉を立て公爵を見た。

「なんだと?」

「これはあなたの力が起こした事。止められるのはあなただけよ」
「私は何度も止めた!」
「分かっていないわね。あなたは精霊にただ大声を上げ命令したの。それでは聞き入れてもらえない。
願いなさい。力を使ったあなたが、心の底から願うのよ。そうすれば精霊もあなたの声を聞いてくれる。加護の力がなくなれば、魔法が使える。落ちた人々を助けられるわ」

 その言葉を聞いたアーソイル公爵は慌てて両手を合わせ願いはじめた。

「土の精霊よ! 頼む、止まってくれ!」
 公爵が願うが光は止まらない。

「かなり怒らせてしまったみたいね」とエマが呟く。

「……私の加護の力を、今しがた授かったこの力を返す! だから止まってくれ! 精霊よ! どうか、どうか私の願いを聞き入れてくれ――!」

 息子を助けたい一心で捧げられた公爵の願いが辺りに響き渡った。

 直後、穴の口を回っていた赤い光がパッと消えた。
 同時に公爵を包み込んでいた光も消え去り、浮いていた公爵の体は穴へと落ちてしまった。

「ギル、ジェイド! 呪文を!」

 エマは穴へ向かい杖を振る。杖の先からいくつもの光のロープが現れ、穴へと伸びる。
 すると真っ暗な穴の中から、魔法のロープに縛られた人々が浮かび上がってきた。
 その横で同じように杖を振るギルの下には、動物や様々な生き物がシャボン玉のような丸い膜に包まれた状態で集まっていた。
 ジェイドの杖の先にはアーソイル公爵の姿があった。
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