まだあなたを愛してる〜離縁を望まれ家を出たはずなのに追いかけてきた夫がめちゃめちゃ溺愛してきます〜

27淡紅色の瞳

 私を映した深紅の瞳は驚き見開かれた。

「母上によく似ている……」
 兄はポツリと言葉を漏らす。

「似ている? 私が?」

 聞き返すと「いや、何でもない……」と首を横に振り、スッと私から顔をそらし、周りを見回しはじめた。

 加護の力の恩恵で建てられた豪華な公爵邸は、同じ加護の力で失われてしまった。
 目の前には何も残されていない。
 広大な大地が夕陽に照らされているだけ。

 兄は一つため息を吐き、再び私に目を留めた。

「父上の加護の力でこうなったのなら……。仕方ない」

「仕方ない? アンドリューお前は何を言っているのだ! それは生まれてすぐに捨て置いた我々に恨みを持ち、呪いを込めた力を私に与えたのだ! 命令を聞く事がなかった力の所為でこんなことになったのだぞ!」

 私へと人差し指を突き刺しながらアーソイル公爵は激昂した。

「それはお前の母親の命を奪ったのだ!」
「父上……」

 兄は静かに突き出された公爵の手を押さえる。

「母上が亡くなられたのは、四女の所為ではありません」
「な?」

「私は四女の瞳が淡紅色である理由を知っています」

「なんだと?」

 驚き目をむく公爵を見ながら、兄はゆっくり話をはじめた。

「母上の命があれば、四女の瞳は深紅だったのです」

「どういうことだ……?」

 言葉の意味が分からない公爵は首を傾げた。

 それは私も同じ。
 お母様が生きていれば私の瞳は深紅だった?

 その理由をただ一人知る兄は、せつなげな目を私へと向ける。

「どうかこれだけは分かっていて欲しい。父上は、心の底から母上を愛している」

 兄は一歩足を進め近づいてきた。
 警戒したジェイドは片手に杖を握り、もう一方の腕で私の体を抱き寄せる。
 その様子を見た兄はその場で止まり、声を落とした。

「母上を愛しているからこそ、父上は君を憎んでしまった」
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