まだあなたを愛してる〜離縁を望まれ家を出たはずなのに追いかけてきた夫がめちゃめちゃ溺愛してきます〜
人々の力になる為に、公爵の力が必要……。
兄からの願い……?
私はそれを叶えなければならないの?
「言いたいことはそれですべてでしょうか、アンドリュー・アーソイル公爵」
突然声を発したジェイドは、兄の後方にいる家族に鋭い目を向けた。
視線の先には、加護持ちの証である深紅の目を不安そうに歪め母親に寄り添う子供達の姿がある。一番大きい子供は五、六歳だろうか。
ジェイドに見つめられた子供たちはびくりと体を震わせて母親の後ろに隠れた。
「アンドリュー様。あなたは、その子供が生まれた時に過ちに気づいたと言われましたが、その頃ローラは一人、別荘にいたはずでは?」
「そうだが……?」
「気づいた時点で、公爵閣下に瞳の色が変わる事を告げなかった理由はなぜでしょうか?
その上、公爵邸に戻った彼女を理由を知るはずのあなたまで他の者と同様に虐げていた事は、どう説明されますか?」
捲し立てられ狼狽した兄は口を滑らせる。
「当然だ、それは加護なし……」
言葉にしてすぐ口元を押さえたが、その声はしっかりと私達の耳に届いた。
「そう、あなた達は『加護の力』を持たないと言う理由で彼女を虐げてきた」
ジェイドはさらに詰責する。
「瞳の色などきっかけに過ぎない。大体これまで出産に立ち会った医師がいるのならその者達はなぜ瞳の色の事を公爵に伝えなかったのですか? それに、生まれてすぐの子を冷遇するなど人としてありえない!」
自分より身分の低い者に何度も叱責される形となった兄はスッと表情を変え、目を据え怒鳴り声を上げた。
「人として? 我々はお前などとは違う、加護の力を持つ選ばれた者だ! たとえ医師が瞳の色の変化に気づいていたとしても、お爺様が口にした事に異議を唱えることは許されない
それに、四女は加護なしだった。加護持ちの公爵家なら当たり前の処置をとったまでだ!」
「当たり前? 家族なら、守る事が当たり前だろう!」
怒りのこもったジェイドの声に、兄はさらに言葉を荒くする。
「我々はそれを守っていた。他の加護を持つ公爵家ならば、加護なしと分かった時に捨てているだろう。アーソイルだったからこそ名を持つ事を許され、寝る所も食べ物も与えられた。私達の家族として生まれたそれは幸運だったのだ!」
私へ向けられていた優しかった兄の目は、これまで何度も見てきた冷たく鋭い視線へと変わった。
「だが恩を受けたお前は、アーソイルに何をした? 加護の力を手にしておいて、何一つアーソイルの力になっていない。その上こんなこと……だが、父上の加護の力を戻せばすべて許してやる」
兄の深紅の目と公爵の黒の目は、ジェイドの腕の中にいる私を捕らえるように見ている。
さっきまであった兄の優しい目も声もすべて嘘。
はじめから公爵の力を蘇らせるための偽りの姿だった。
「……」
気持がぐちゃぐちゃで言葉にならない。
母親の命を奪ったと憎まれ、淡紅色の瞳を嫌われても、生きていられたのは彼らの恩情だったと?
別荘に一人捨て置かれても、食べ物を与えてもらったと私は感謝をしなければならないの?
『私達の家族として生まれ幸運だった』と目の前にいる人は言った。
──幸運?
ジェイドに会い彼に愛されるまで、心から幸せと思ったことはない。
「わ……」
言い返したいのに、どうしても言葉にできない。
悲しさと悔しさから込み上げてきた涙がとめどなく流れ落ち、掴んでいたジェイドの腕を濡らした。
「ローラ」
ジェイドは優しい声で私の名を呼ぶと、涙に濡れている頬を拭ってくれた。
それから、私を捕らえるように見ている公爵を直視する。
「彼女は幸運だったというのですか?」
「そうだ」
「ずっと一人だった彼女の寂しさや苦しみを、あなた達は分かるのですか?」
彼の低い声は怒りに震えていた。
(ジェイド……)
「俺はあなた達を許さない」
ジェイドは手にしていた杖の先を兄へと向ける。
杖の先に目を留めた兄は一瞬怯んだ様子を見せたが、すぐに態度を変えた。
「許さないだと? お前がそれを決める権利はない。他人の分際で我々家族の事に口を挿むな!」
「我々家族? ふざけるな! 俺は彼女の夫だ。家族と言っていいのは俺だけだ!」
ジェイドは持っていた杖を一気に掲げると、口を開いていた兄と家族をその場から消し去った。
「貴様! 私の息子達に何をした!」
拳を握りながら怒鳴り声を上げるアーソイル公爵にジェイドは冷たい視線を返す。
「アーソイル公爵の数ある邸の一つに送らせていただきました。これ以上あのような偽りの言葉を俺の大切な人に聞かせるなんて出来ません」
「貴様!」
「ああ、そうだ公爵閣下。あなたも私の魔法で送って差し上げましょう」
ジェイドは恭しくお辞儀をして見せる。
それは爵位の高い公爵にとる態度としては何もおかしいことはない。けれど取り繕ったような彼のお辞儀は公爵を逆上させるものとなった。
「ジェイド・レイズ! 魔力を取り戻したからといい気になるな! ローラッ! すぐに私の」
激昂するアーソイル公爵の言葉は、そこでプツリと途絶え姿ごと消え失せた。
「もう、ジェイド甘いわよ。あんなつまらない話、最後まで聞く必要はないわ」
杖を片手にしているエマはウインクをして見せる。
「ローラは本当にアーソイル公爵の子供なの? 彼らと同族だとは思えないよ」
ギルは嫌な物を口にした子供みたいにべーっと舌を出した。
それを見たエマはくすくすと笑う。
「ローラは別々に暮らしていたのだから、彼らと考え方や性格が違うのは当然の事だわ。一緒に暮らしていたら、ローラもあんな風になっていたかもしれないけれど」
エマの話に、ジェイドとギルは同じように眉根を寄せ嫌な顔をした。
兄からの願い……?
私はそれを叶えなければならないの?
「言いたいことはそれですべてでしょうか、アンドリュー・アーソイル公爵」
突然声を発したジェイドは、兄の後方にいる家族に鋭い目を向けた。
視線の先には、加護持ちの証である深紅の目を不安そうに歪め母親に寄り添う子供達の姿がある。一番大きい子供は五、六歳だろうか。
ジェイドに見つめられた子供たちはびくりと体を震わせて母親の後ろに隠れた。
「アンドリュー様。あなたは、その子供が生まれた時に過ちに気づいたと言われましたが、その頃ローラは一人、別荘にいたはずでは?」
「そうだが……?」
「気づいた時点で、公爵閣下に瞳の色が変わる事を告げなかった理由はなぜでしょうか?
その上、公爵邸に戻った彼女を理由を知るはずのあなたまで他の者と同様に虐げていた事は、どう説明されますか?」
捲し立てられ狼狽した兄は口を滑らせる。
「当然だ、それは加護なし……」
言葉にしてすぐ口元を押さえたが、その声はしっかりと私達の耳に届いた。
「そう、あなた達は『加護の力』を持たないと言う理由で彼女を虐げてきた」
ジェイドはさらに詰責する。
「瞳の色などきっかけに過ぎない。大体これまで出産に立ち会った医師がいるのならその者達はなぜ瞳の色の事を公爵に伝えなかったのですか? それに、生まれてすぐの子を冷遇するなど人としてありえない!」
自分より身分の低い者に何度も叱責される形となった兄はスッと表情を変え、目を据え怒鳴り声を上げた。
「人として? 我々はお前などとは違う、加護の力を持つ選ばれた者だ! たとえ医師が瞳の色の変化に気づいていたとしても、お爺様が口にした事に異議を唱えることは許されない
それに、四女は加護なしだった。加護持ちの公爵家なら当たり前の処置をとったまでだ!」
「当たり前? 家族なら、守る事が当たり前だろう!」
怒りのこもったジェイドの声に、兄はさらに言葉を荒くする。
「我々はそれを守っていた。他の加護を持つ公爵家ならば、加護なしと分かった時に捨てているだろう。アーソイルだったからこそ名を持つ事を許され、寝る所も食べ物も与えられた。私達の家族として生まれたそれは幸運だったのだ!」
私へ向けられていた優しかった兄の目は、これまで何度も見てきた冷たく鋭い視線へと変わった。
「だが恩を受けたお前は、アーソイルに何をした? 加護の力を手にしておいて、何一つアーソイルの力になっていない。その上こんなこと……だが、父上の加護の力を戻せばすべて許してやる」
兄の深紅の目と公爵の黒の目は、ジェイドの腕の中にいる私を捕らえるように見ている。
さっきまであった兄の優しい目も声もすべて嘘。
はじめから公爵の力を蘇らせるための偽りの姿だった。
「……」
気持がぐちゃぐちゃで言葉にならない。
母親の命を奪ったと憎まれ、淡紅色の瞳を嫌われても、生きていられたのは彼らの恩情だったと?
別荘に一人捨て置かれても、食べ物を与えてもらったと私は感謝をしなければならないの?
『私達の家族として生まれ幸運だった』と目の前にいる人は言った。
──幸運?
ジェイドに会い彼に愛されるまで、心から幸せと思ったことはない。
「わ……」
言い返したいのに、どうしても言葉にできない。
悲しさと悔しさから込み上げてきた涙がとめどなく流れ落ち、掴んでいたジェイドの腕を濡らした。
「ローラ」
ジェイドは優しい声で私の名を呼ぶと、涙に濡れている頬を拭ってくれた。
それから、私を捕らえるように見ている公爵を直視する。
「彼女は幸運だったというのですか?」
「そうだ」
「ずっと一人だった彼女の寂しさや苦しみを、あなた達は分かるのですか?」
彼の低い声は怒りに震えていた。
(ジェイド……)
「俺はあなた達を許さない」
ジェイドは手にしていた杖の先を兄へと向ける。
杖の先に目を留めた兄は一瞬怯んだ様子を見せたが、すぐに態度を変えた。
「許さないだと? お前がそれを決める権利はない。他人の分際で我々家族の事に口を挿むな!」
「我々家族? ふざけるな! 俺は彼女の夫だ。家族と言っていいのは俺だけだ!」
ジェイドは持っていた杖を一気に掲げると、口を開いていた兄と家族をその場から消し去った。
「貴様! 私の息子達に何をした!」
拳を握りながら怒鳴り声を上げるアーソイル公爵にジェイドは冷たい視線を返す。
「アーソイル公爵の数ある邸の一つに送らせていただきました。これ以上あのような偽りの言葉を俺の大切な人に聞かせるなんて出来ません」
「貴様!」
「ああ、そうだ公爵閣下。あなたも私の魔法で送って差し上げましょう」
ジェイドは恭しくお辞儀をして見せる。
それは爵位の高い公爵にとる態度としては何もおかしいことはない。けれど取り繕ったような彼のお辞儀は公爵を逆上させるものとなった。
「ジェイド・レイズ! 魔力を取り戻したからといい気になるな! ローラッ! すぐに私の」
激昂するアーソイル公爵の言葉は、そこでプツリと途絶え姿ごと消え失せた。
「もう、ジェイド甘いわよ。あんなつまらない話、最後まで聞く必要はないわ」
杖を片手にしているエマはウインクをして見せる。
「ローラは本当にアーソイル公爵の子供なの? 彼らと同族だとは思えないよ」
ギルは嫌な物を口にした子供みたいにべーっと舌を出した。
それを見たエマはくすくすと笑う。
「ローラは別々に暮らしていたのだから、彼らと考え方や性格が違うのは当然の事だわ。一緒に暮らしていたら、ローラもあんな風になっていたかもしれないけれど」
エマの話に、ジェイドとギルは同じように眉根を寄せ嫌な顔をした。