まだあなたを愛してる〜離縁を望まれ家を出たはずなのに追いかけてきた夫がめちゃめちゃ溺愛してきます〜
日が傾きはじめた頃、幌馬車は山道の途中で停まった。
「ここから先は馬車が通る事はできねぇ場所でなぁ」
御者はそう言うと私を山道の分かれ道に下ろした。
片方は乗せてもらった幌馬車が通れるほどの道。(それでも狭いけれど)
もう片方は、まるでけもの道のようなとても狭い道。
その道を指さし、御者は話した。
「この道を真っ直ぐ行けば、あんたの行く修道院があるはずだ。日が暮れるまでには着くと思うが、一応これを渡しとくよ」
御者はランタンを手渡してくれた。
(私は修道院に行くのね)
修道院、そこなら決まりごとはあるだろうけれど私一人ということはない。
(よかった)
やっと聞く事のできた行先に安堵した。
「食いもんは……これしかねぇ、持って行きな」
御者は、御者席に置いてある袋の中からリンゴを一つ取り出すと私の手に乗せた。
(御者のおじさん、気にしてくれていたのね)
いろいろと思い出し考えてしまったからか、ここに着くまで不思議とお腹はすかなかった。
何も口にしようとしない私を心配して、御者は何度か声をかけてくれていたのだ。
「ありがとうございます」
いろいろと気にかけてくれた御者に頭を下げた。
御者は「達者でな」と別れの言葉を述べすぐに馬車を走らせた。
小さくなっていく幌馬車を見送り、もらったリンゴを鞄に入れて、私は山道を進むことにした。
その前に、両手を地面につける。
「私が修道院へ無事に辿り着けるよう、見守って下さい」
加護の力はないけれど、一人で暮らしているうちに、私はこうしていろいろな物に声をかけるようになった。
そうすると少しだけいいことが起こる……気がしている。
「どれくらい先か分からないから早く行かないと」
鞄とランタンを持ち少し速足で歩いていると、余計な事を考えないせいか喉が渇いてきた。
「お水、どこかにないかしら」
リンゴはあるけれど、もう少し喉を潤せるものが欲しい。そう思いながら進むと、水音が聞こえてきた。
見れば、少し先の山肌から湧水が流れている。
流れ落ちる水は澄んでいておいしそうだ。
(おいしそうだけれど、この水は飲めるのかしら?)
飲んでしまおうかと迷っていると、道の先から犬が歩いてきた。
(野犬? 襲ってこない?)
近づいてくる犬は、成犬の様だがそれほど大きくはない。
動物に襲い掛かられた事は一度もないが、何があるかは分からない。私は鞄を両腕に抱え、身構えた。
犬は私を見て嬉しそうに尻尾を振っている。
(大丈夫みたい……)
人に慣れているのだろうか? それとも修道院で飼われている犬?
耳と尻尾が栗色で残りの体の毛は白くモフモフした美しい犬。特に危険はなさそうだ。
けれど目を離すと危ないかもしれないと見ていると、犬は湧水の下へ行き、カプカプと音を立てながらおいしそうに水を飲みはじめた。
「そのお水、飲んでも平気なの?」
喉が渇いていた私は思わず犬に尋ねた。
犬はつぶらな瞳で私を見てフワフワの尻尾をパタパタと振り、湧水から少し離れた。まるで飲んでもいいと言っているようだ。
考えてみれば、これを飲んだ私が死んでも悲しむ人はもういない。
「いただきます」
私は迷わず手ですくい、湧水を飲んだ。
「ん、美味しい」
思いの外喉は乾いていて、コクコクと二度ほど掬い飲んだ。
飲み終えた私は、犬にお礼を言おうと周りを見た。だが、どこかへ行ってしまったのかすでにいなくなっていた。
「ありがとう」
いなくなってしまった犬にお礼を言って、またけもの道を歩き始めた。
時間と共に木の影が濃くなってくる。
(もう少し暗くなったらランタンに明かりを点そう)
その前に辿り着ければいいけれど……。そう思いながら進んでいくと、先の方に建物の屋根らしきものが見えて来た。
なんとか日が落ちる前に着くことが出来たようだ。
だが……。
「ここから先は馬車が通る事はできねぇ場所でなぁ」
御者はそう言うと私を山道の分かれ道に下ろした。
片方は乗せてもらった幌馬車が通れるほどの道。(それでも狭いけれど)
もう片方は、まるでけもの道のようなとても狭い道。
その道を指さし、御者は話した。
「この道を真っ直ぐ行けば、あんたの行く修道院があるはずだ。日が暮れるまでには着くと思うが、一応これを渡しとくよ」
御者はランタンを手渡してくれた。
(私は修道院に行くのね)
修道院、そこなら決まりごとはあるだろうけれど私一人ということはない。
(よかった)
やっと聞く事のできた行先に安堵した。
「食いもんは……これしかねぇ、持って行きな」
御者は、御者席に置いてある袋の中からリンゴを一つ取り出すと私の手に乗せた。
(御者のおじさん、気にしてくれていたのね)
いろいろと思い出し考えてしまったからか、ここに着くまで不思議とお腹はすかなかった。
何も口にしようとしない私を心配して、御者は何度か声をかけてくれていたのだ。
「ありがとうございます」
いろいろと気にかけてくれた御者に頭を下げた。
御者は「達者でな」と別れの言葉を述べすぐに馬車を走らせた。
小さくなっていく幌馬車を見送り、もらったリンゴを鞄に入れて、私は山道を進むことにした。
その前に、両手を地面につける。
「私が修道院へ無事に辿り着けるよう、見守って下さい」
加護の力はないけれど、一人で暮らしているうちに、私はこうしていろいろな物に声をかけるようになった。
そうすると少しだけいいことが起こる……気がしている。
「どれくらい先か分からないから早く行かないと」
鞄とランタンを持ち少し速足で歩いていると、余計な事を考えないせいか喉が渇いてきた。
「お水、どこかにないかしら」
リンゴはあるけれど、もう少し喉を潤せるものが欲しい。そう思いながら進むと、水音が聞こえてきた。
見れば、少し先の山肌から湧水が流れている。
流れ落ちる水は澄んでいておいしそうだ。
(おいしそうだけれど、この水は飲めるのかしら?)
飲んでしまおうかと迷っていると、道の先から犬が歩いてきた。
(野犬? 襲ってこない?)
近づいてくる犬は、成犬の様だがそれほど大きくはない。
動物に襲い掛かられた事は一度もないが、何があるかは分からない。私は鞄を両腕に抱え、身構えた。
犬は私を見て嬉しそうに尻尾を振っている。
(大丈夫みたい……)
人に慣れているのだろうか? それとも修道院で飼われている犬?
耳と尻尾が栗色で残りの体の毛は白くモフモフした美しい犬。特に危険はなさそうだ。
けれど目を離すと危ないかもしれないと見ていると、犬は湧水の下へ行き、カプカプと音を立てながらおいしそうに水を飲みはじめた。
「そのお水、飲んでも平気なの?」
喉が渇いていた私は思わず犬に尋ねた。
犬はつぶらな瞳で私を見てフワフワの尻尾をパタパタと振り、湧水から少し離れた。まるで飲んでもいいと言っているようだ。
考えてみれば、これを飲んだ私が死んでも悲しむ人はもういない。
「いただきます」
私は迷わず手ですくい、湧水を飲んだ。
「ん、美味しい」
思いの外喉は乾いていて、コクコクと二度ほど掬い飲んだ。
飲み終えた私は、犬にお礼を言おうと周りを見た。だが、どこかへ行ってしまったのかすでにいなくなっていた。
「ありがとう」
いなくなってしまった犬にお礼を言って、またけもの道を歩き始めた。
時間と共に木の影が濃くなってくる。
(もう少し暗くなったらランタンに明かりを点そう)
その前に辿り着ければいいけれど……。そう思いながら進んでいくと、先の方に建物の屋根らしきものが見えて来た。
なんとか日が落ちる前に着くことが出来たようだ。
だが……。