まだあなたを愛してる〜離縁を望まれ家を出たはずなのに追いかけてきた夫がめちゃめちゃ溺愛してきます〜
「もうすっかり陽も落ちてしまったわね。そうだわ、これから皆でレイズ侯爵家に行きましょう。マイアさんも送っているし、ギルもエイダンに会ってみたいでしょう? ね?」

 確かに、話している間にすっかり陽は落ち夜空には無数の星が輝いている。
 エマは杖の先に光を灯す。

「エマ、エイダンって誰?」

 はじめて聞いた名前にギルは首を傾げた。
 ──私も知らない名前。
 確かジェイドのお兄様は違う名前だった、ということは。

「あの『エイダン』って、もしかしてジェイドのお兄様の子供ですか?」
「そうよ、とっても可愛いの!」

 エマは満面の笑みを浮かべる。

「ローラはまだ兄さん達に会った事はなかったね」
「はい」
 なぜかジェイドは切なく笑った。

「……会ってみたいよね」
「はい……出来れば……」

 結婚して間もなくレイズ侯爵邸に挨拶に行った。しかし、その日お兄様たちは出掛けられていたため、私はまだお会いしたことはない。
 また後日機会があるだろうと思っていたけれど、その日以来ジェイドは私を侯爵邸に連れて行く事はなかった。
 本当はクリスタ様と結婚をさせたいと願われていた義両親から見れば、私は仕方なく結婚を認めた者。二度と連れてこない様に言われていたのだろう。

 彼は優しいから、私にその事を言い出せなくて……。
 もしかしたらお兄様達も私と会う事を拒んで……。

 見上げれば、ジェイドは苦しそうな顔をしている。

「あの、無理ならいいの。私あなたと居られればそれで……」

 慌ててそう言うと、聞いていたギルが大きなため息を吐いた。

「はあーっ、ジェイド! 君はどうしてはっきりと言わないのかな? それじゃローラが不安になるだけだろう?」

「あ、その……」
 ごめん、とジェイドは言葉を溢した。

「あら、そう言う所はギルと似ているじゃない」
「僕はハッキリ言うだろう?」
「あなたは回りくどいもの」
「そんなこと……いや、今は僕の話じゃない。いいか、ジェイド。君が我慢の限界だという事を僕はよく分かっている。だが、一度ローラを連れてレイズ侯爵家に行こう。今日の所は挨拶を済ませるだけにして、すぐに二人で帰ればいい。それくらいなら我慢できるよね?」

 ギルの言葉にジェイドは唇を噛みしめながら頷いた。
(……もしかして、ジェイドが行きたくないだけなの?)

「あら、悪いけれど直ぐには帰れないわよ? 私、マイアさんに料理を頼んだの。今日はみんなでお祝いをするのよ」

「え! みんなで?」

 ジェイドは声を裏返し何度も瞬きをした。
 ギルは、それは可哀想だよと呟いている。

 そんな二人の様子は気にすることなくエマはニッコリと笑う。

「ローラは行きたいわよね?」
「はい」
「じゃあ、行きましょう」

 私の返事を聞いてすぐ、エマは掲げていた杖をふわりと振った。
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