まだあなたを愛してる〜離縁を望まれ家を出たはずなのに追いかけてきた夫がめちゃめちゃ溺愛してきます〜

29魔力持ちの瞳

 エマの魔法で私達はレイズ侯爵邸に転移した。
 以前訪れた時は昼間で明るく、その上緊張していたため気づかなかったけれど、庭のあちらこちらに何だか分からない生き物の石像が置いてあった。その石像たちの目は暗闇の中で紫色の妖しい光を一直線に放っている。
 怖くてジェイドの腕にしがみ付いていると、ギルが嬉しそうに説明をはじめた。

「ローラ、これ僕と息子で考えたんだよ。石像の視界に入ると罠が作動する仕組みだから、気を付けて」

 そう言いながらワザと石像の視界に入ってみせる。……けれど何も起こらなかった。
「あれ? 壊れているのかな?」
 ギルは石像に手を伸ばそうとする。

「後にして」
「はーい」

 石像を直そうとするギルを止めたエマは玄関のベルを鳴らした。

「はいっ」

 扉の向こうから可愛らしい子供の声が聞こえた。
 ギィ―と鈍い音を立て扉が開くと、ジェイドとよく似た男性とキレイな女性そして可愛らしい男の子が出迎えてくれた。

「エイダン! 久しぶりね!」
「はい!」

 エマは両手を広げ、ジェイドによく似た小さな男の子を抱き上げる。

「いや、まだ半日も経っていません」

 エマに冷ややかな目を向けたジェイドは私に、彼の兄フェリクス様とその妻メアリ様を紹介してくれた。

「兄さん、随分と紹介が遅くなりましたが俺の妻、ローラです」
「はじめまして、ローラです」

 紹介を受けた私は軽くひざを折り挨拶をする。

「はじめまして、ローラさん……」

 お兄様が話しはじめたその時、私の足下に二匹の犬が走り寄って来た。

「え?」

 二匹の黒い小型犬は尻尾を激しく振りながら、私の足下をくるくると走り回る。躾の為か、口輪を嵌めていて鳴くことは出来ない様だった。

「可愛い……」

 そう私が言うと、二匹は嬉しそうにぴょんぴょんと跳ねる。
 抱っこして欲しいのかも知れないと思いその場に座ると、二匹は我先にと膝の上に乗ってきた。
 小型犬だと思っていたけれど、まだ子犬みたい。母親と離れて間もないのか、しきりに私の手に頭を擦り付け甘えて来る。

「あー、ローラその犬は……」

 ジェイドが何か言いかけた時、エイダンくんがエマの手を引いて傍に来た。

「ワンワンね、チーチとハーハなの」

 可愛い声で私に犬の名前を教えてくれた。

「チーチとハーハ? まぁ、可愛らしい名前ね」
「うん、かわいいしてあげて?」

 目の前にきてしゃがんだエイダンくんは私を見上げニッコリと笑った。
 エイダンくんに言われた通り、私は二匹の頭を優しく撫でる。
 二匹はせつなく鼻を鳴らした。
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