まだあなたを愛してる〜離縁を望まれ家を出たはずなのに追いかけてきた夫がめちゃめちゃ溺愛してきます〜
「ローラ」

 熱い吐息と彼の掠れた甘い声が耳に触れ、名前を呼ばれただけなのに私の体は粟立った。

「子供、欲しくない?」
「子供……?」
 子供……それは結婚して以来ずっと願っていた事。

「そう、エイダンといる君を見ていたら……子供が欲しいと思った」
「……私も」

 子供を欲しいと思っている。ずっと授かる事は出来なかったけれど、自分の気持ちに素直になれた今なら授かる事ができるかも知れないと少しだけ期待している。でも……。

「ローラ」

 ジェイドは小鳥がつつくようなキスを首筋に落としはじめた。
 くすぐったいキスの感触に私は体をよじらせる。

「くすぐったい?」
 唇を這わせながら話すジェイドにコクリと頷き返事をすると、腰に回されていた彼の手は私の体の線をたどりだして。

「ジェイド……あのね」

 彼の両手は小さな胸のふくらみを包み込んだ。

「ローラ」

 名前を甘く囁き、ジェイドはゆっくりと胸を揉みはじめる。

「ジェイド……ダメ……」
「違うだろう?」

 耳に直接囁かれる甘く掠れた声に私の体はまた粟立つ。彼の指先が動くたびに甘く切ない刺激が体を突き抜けて。
「……!」
 漏れそうになる声を唇を噛んで身をよじり押さえる。

「いいよね?」

 ――いい?
 それは、気持がいいということ? それとも……。
 何も言わない事を了承ととらえた彼の手は流れるように下腹部へと下りていく。

「ジェイド!」

 慌てて彼の手を押さえれば、肩に嚙みつくようなキスが落とされる。

「やっ……」
「ねぇローラ、今朝俺は限界だって言っただろう? これまでもずっと我慢してきたんだ。今はいちどでいいから……」

 切なく息を吐きながらジェイドは体をぐっと寄せた。
 背にあたる彼の体。腰のあたりにお湯の中でもはっきりとわかるほど熱を持った昂ぶりを感じる。

「ローラ、愛してる」

 熱い吐息が首筋にかかる。

 ――私も、彼を愛している。いつだって彼に愛されたいと願っているけれど。

「ジェイド、今は我慢して」

 私は首を振って、彼の手を押さえたまま後ろを振り返った。

 ――どんなに彼を愛していても、今はダメ。
 ここはレイズ侯爵邸。それに私達は汚れを落とす為に入浴しているだけなのだ。
 今頃皆はジェイドの誕生日を祝うため、一階のダイニングで待っていてくれている。テーブルの上には美味しそうな料理が並べられているはず。

 愛し合う時間は……ない。

 それに、こういう事は家へ戻ってからにしたい……そう思いながら見つめると、ジェイドは切なく顔を顰めた。

「それ、逆効果だから」

 新緑の瞳に隠すことない欲を孕ませたジェイドは、私を逃がさないように後頭部に手を添え口づけを落とした。

「……んんっ」

 彼の熱い口づけに、抵抗していた私の心は簡単に落とされた。
 息をすることを忘れそうになるほど夢中になりながら、私とジェイドは口づけを交わしあった。
「はっ……」
 息を吐いた拍子に離された唇から、二人を繋ぐように銀糸がつっと伸びる。ジェイドはそれを舌で舐めとると熱を孕む新緑の目を細めた。

「嫌じゃないよね?」

 下腹部に置かれていた彼の手はさらに下へと伸びる。
「ジェイド……」
「ローラ」
 ゆっくりと動かされる手。
「ダメ……ジェイド」
「本当にダメ? ローラ」

 ジェイドは甘く掠れた声で囁いて、快感に体をしならせる私に目を細める。
「ローラ、もっと感じて」
「やあっ……」
 悶える私の体の動きに湯が波をたてる。パシャパシャという音は私の嬌声と重なって広い浴室に響き渡った。
 いつもの部屋の中とは違う声の反響に、佚楽の奥に隠れていた理性が顔をのぞかせた。

 ――ここは私達の家じゃない――。

(家で、それも浴室でこんなことをしたことはないけれど)

「ジェイド……ダメ、家に……戻って……」

 彼の腕を掴みながら首を横に振った。
(この先は、私達の家に戻ってから……)

 愛される事は嬉しい。でも愛し合うのは、今じゃない。
彼の誕生日を祝ってくれる皆との食事を終えて、私達の家へと戻ったその後で――そう思っていた……のに。

「ローラ、残念だけど今は家に帰れない。俺達が勝手に帰らないように、エマはこの屋敷に魔法をかけているらしい」

 ジェイドは私の体をくるりと向かい合わせにし、抱きかかえながら湯からザバッと勢いよく立ち上がった。

「……⁉︎」
 そのまま体を繋ごうとして。
「まっ……っ……」
(待って……っ!)

 突然の事に言葉が上手く出てこない。落とされないように彼にしがみ付く事しか出来なくて……。
「またない……くっ……」
 少し苦しそうに顔を顰めながらジェイドは私の中に入ってきた。

「ああっ……っ」
 これまでになく大きく感じる昂ぶりが少しずつ蜜路を割って入ってくる。

「まだ……」

 ジェイドは私を抱え込みながらぐっと腰を突き上げ、自身を最奥へと押し込んだ。
「……くっ……」
 ほどなくジェイドは、せつなく息を吐き、私の肩に頭を埋めた。
 ……これは。
 もしかして……。

 こんなことははじめてだけれど、彼は果てたのだろう。今まで、こんな体勢で体を繋いだことはなかったから、いつもより早く……。

 ううん、彼は我慢の限界だと言っていた。だからきっと……。

「ジェイド……果てたの?」

 確か、彼は一度でいいと言っていた。
 それなら……体を離してお風呂を出て、早くみんなの所へ行かなければ……。

「ジェイド、早くいかないと……」
「うん、そうだね」

 スッと顔を上げたジェイドはなぜか妖艶な笑みを浮かべている。

「動くよ」
「え?」

 一切の有無を言わせず、ジェイドは腰を動かしはじめた。
 私はなすすべなく上下に揺さぶられて。
「ああっ! んんっ!」
「はっ……っ、ローラ……ッ……」
 二人の甘く切ない呼吸と肌を打ちあう淫らな音が私の鼓膜を震わせていく。

「ローラ……」

 しばらくするとジェイドは動きを緩め、私の顔を覗き込んだ。すでに何度も快楽の果てに押し上げられた私の瞳には薄っすらと涙が浮かんでいて。
 それを確認したジェイドは嬉しそうに微笑んだ。

「ローラ、いつもみたいに『お願い』って言って?」
「いつも……みたいに……?」

『お願い』それは初めて体を重ねた日、言って欲しいと彼に願われた言葉。
 その言葉を口にすると彼はすごくうれしそうに微笑むから、私はいつも言うようにしていて。

「お願い……」

 ジェイドは小さく頷き、唇が触れるほど近くに顔を寄せた。

「そのまま、俺を欲しいと口にして……」

「ジェイドをほ……」

 言われるままに言葉にしようとしたちょうどその時、浴室の扉の向こうから嬉しそうなギルの声が聞こえてきた。

「二人の着替え持って来たよ! ここに置いておくからね。それから、皆はすでに居間に集まっているんだけど?」

 ジェイドはフッと息をつく。

「ギル、ありがとうございます。できるだけ急ぎますが、食事は先にはじめていてもらえますか?」

「あ――うん、事情はわかってる。でも出来るだけ早く来て、今日は君が主役なんだから」
「はい。出来るだけ早くいきます」

 二人は平然と扉越しに会話をしている。
 事情は分かっているとギルは言って……。それって。

「……‼︎」

 ギルは今、私達が抱き合っている事に気が付いているという事だ。

 恥ずかしくなった私はぎゅっとジェイドにしがみついた。
 まだ体は繋がったまま、無理に動けば声を漏らしてしまいそう。

 すると「待てない?」と甘い声で囁いたジェイドがゆっくり腰を動かしはじめた。

「……!」
(そうじゃない……!)

 ギュッと唇を噛みしめ、なんとか漏れる声を押さえる。
だってまだ、扉の向こうにはギルがいるのだ。
 浴室で私達が何をしているかはギルにはお見通しなのだろう。それでも声は聞かれたくない。

 声を漏らすことはなかったが、動きに合わせて揺れる湯面のパシャパシャという音が思いの外浴室に響いてしまった。

「ああ、ごめん。邪魔したね!」

 音が聞こえたのだろう、軽快に話したギルはコツコツと足音を立てながら部屋を後にした。
 バタン、と扉の閉まる音が聞こえた途端、ジェイドは勢いよく腰を動かしはじめて。
 体の奥を穿つ刺激に、力なく仰け反る私の体を抱え込んだジェイドは、荒い呼吸をしながら「痛くない?」と口にした。

「いっ……うんっ……あっ」
(痛くはない、ないけれど……そうじゃない。どうしてギルがいる時に動いたの⁈)

 怒ったような顔で見つめ返すと、ジェイドはなぜかニッと口角を上げた。

「そう、じゃあもう少し激しくしてもいいね」

(え……?)

「む、無理っ……そんなっ……もう、わたし……やっ……ああ、あんっ」
(私はもう何度も果てているのに……!)

 深く息を吐いたジェイドが私の中に欲液を迸らせたのは、それから間もなくの事だった。
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